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結局、最後の一口を食べ終えるまでゲトウさんにスプーンを返しては貰えず、羞恥心なんて捨てざるを得なかった。今日限り、もう二度と彼に主導権を握らせるものか。そう、心に決めた私は、次の講義が始まるまでの時間を一人大学内をぶらぶらする予定__が、そう簡単には行かないもの。
「ちょっとゲトウさん!! なんで私に着いてくるんですか?! お友達のゴジョウさんはこっちに居ませんけど!!」
「なんでって、キミと話がしたいからだよA。それに悟が居たんじゃ進む話も進まないしね、私はキミと二人きりで話がしたいんだ」
「結構です」
言葉の通り私の後ろを着いてくるゲトウさん。しかし股下の違いか、直ぐに彼は私の隣に並び私の歩幅に併せて『食後の運動かな?』笑って嫌味まで言ってくるが無視に限る。
彼が静かになればもうそれで……と選び入った図書館でも、彼が私の隣で声を止めることはなくて。
「ああ。確かに図書館なら静かだし、キミと私の会話を他の人に聞かれる心配性もないね。それに煩い猿も寄ってこない」
「と……え、は、猿??」
__猿とはなんのことだろう
大学の近所に動物園は無いし、山猿が降りてきた……などという話も聞いたことはない。首を傾げる私にゲトウさんは『なんでもないよ』笑って見せたが、そう言われると益々気になると言うか、なんというか……。
「おや? 今、気になるって顔をしているね。教えてあげようか?」
「気になりません!! もうゲトウさんわざわざ隣に座らないでくださいよ、目立つじゃないですか!!」
「しーっ……A。目立っているのは私の方ではなくてキミだよ」
ゲトウさんは自分の口と私の口に人差し指を当ていたずらっぽく笑い『静かにね』と私に囁く。
もしもこの場に彼のファンが居たら卒倒する人が続出するんだろう、俗に言うあざとい系男子、残念ながら私には通用しない。
冷えた眼差しをゲトウさんへと向けていれば『つれないね』ため息混じりに呟く彼が、私の唇に置いた指を中々退かせようとしない。
__不可抗力、という事にはならないかな
そっと口を開いて。節くれだつ指に噛まんと歯を剥き出せば、ゲトウさんは慌てて指を引いた。
「いま、私の指を噛もうとした……??」
「すみません。退かしてくれなかったので」
一ミリも思っていない謝罪の言葉。平謝りもいいとこだ。『なんて凶暴なんだキミは!! 私の指は食べ物じゃないんだよ?! 』それ位は言われると思ったのに。
「……や、噛んでくれても構わないよ、他の誰でもないキミだからね」
私、なにか選択肢を間違えたのかな……。ゲトウさんが、もの凄く嬉しそうなんだけど。
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作者名:愛 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時:2023年10月4日 16時