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なんの変哲もない、食堂の窓際にある四人席。今日に至ってはその席へ注がれる視線が異常に多い。理由は明確だ。ゴジョウさんとゲトウさんが共に居て、その二人が女子と共に食事をして居るから。女子、というのは紛れもなく私で……もう一人は硝子。
向けられる好奇の視線に、テーブルに置かれた食事に手をつけることなく、何度目か分からない溜息を零す中、ぐうう……と可愛らしくお腹は鳴る。
「A食べねーのかよ、冷めんぞ」
「分かっていないね悟は。Aは猫舌だから冷えるのを待っているんだよ。……A、私のえび天あげるよ、好きだっただろう?」
__なんで私がえび天好きなことも、猫舌なことも知っているんだろう。
これも『前世』とやらの知恵か。『ありがとうございます』と、一応お礼の言葉をゲトウさんに告げると、彼は細い目を更に細め、嬉しそうに自分のざる蕎麦を食べ始めた。
変な気分だ、硝子以外の知らない人と食事をしているのに、多少居心地の悪さはあれど……嫌では、ない。
「A。はい、あーん」
「え??」
間抜けな声を出した私の口に、程よく冷まされたドリアが侵入する。食材に罪はない。吐き出すことも出来ず、隣に座る人物を睨みつければ、隣の人はスプーンを片手に自身の吐息でドリアを冷ましている。
__硝子!! なんとか言ってよ!!
向かいの席に座るゴジョウさんと硝子は二人揃って大笑い、ゲトウさんを止めるという選択肢はこれっぽっちもない。
恋人でもなければ、友達ですらない私にご飯を食べさせる行為を、人目に触れる場所で平然と行うゲトウさんの心理が全く読めない、本当に何を考えているんだ彼は。
せめてもの抵抗で、ゲトウさんからスプーンを奪おうと奮闘するも、呆気なく私の手は宙を掴み『ダメだよ』と、何故かダメ出し。
「慌てて食べて火傷でもしたら大変だろう? キミは猫舌だからゆっくりお食べ」
__別に催促してませんから!!
反論しようにも、口の中の物を食べ終えてからと飲み込めば、そのタイミングで次の分をゲトウさんが運ぶから、咀嚼しながら恨めしく睨みつけることしか叶わない。
「ふふッ……Aに睨まれるのも、なんだか新鮮で良いね。出来ることなら、怒った時以外の表情を見たいけれど、まだそれは難しい……かな」
しかし、それをゲトウさんはニコニコと笑うばかりで逆効果だったらしい。
前世の私は、一体彼に何をしたんだろう。普通、睨みつけて喜ぶ人なんていないと思うんだけど……。
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作者名:愛 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時:2023年10月4日 16時