【A3!】演技じゃない、本当のキモチ。【短編小説】 (ページ9)

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狸寝入り御影密ページ9

「…密さん、密さん！」

いつものことではあるのだが、密さんが起きてくれない。今日はバイトから帰ってきてすぐ玄関で雪崩込むように眠っていた。

カレー、冷めちゃいますってば。

生憎マシュマロは切らしているし、お世話係の誉さんは編集社に顔を出すんだとかで不在だ。

「密さーん、ご飯ですよ？今日はキーマカレーです！」

声を何度もかけても、ぴく、と眉間にシワが寄っただけでなおも眠り続ける密さん。綺麗な顔が台無しですよ。私は眉の中央の線をそっとなぞる。

「…肌、綺麗だなぁ……。毎日マシュマロ食べてる肌じゃない」

自分の肌と触り比べて、少しがっかりする。私よりも年上で、男の人なのに。

「しかも、きめ細かいし………ぁ、」

ぐっ、と眠る密さんを興味本位で覗き込む。すると思ったより息がかかるほど近づいてしまって、彼は眠っていると分かっているはずなのに何故か思考が固まって、体も動かない。

このまま、なんともミステリアスで白い肌の彼に吸い込まれてしまいそう。

……なんて、何をやっているの私は！これじゃ寝込みを襲っているよにしか見えないじゃない。

「…カントク～！ご飯冷めちゃいますよ！」

「……！う、うん！」

談話室から咲也くんの元気な声にハッと我に返る。私はすぐその場から立ち去ろうと腰を上げた。

「…ねぇ」

「！」

「なに、してたの」

狸寝入り。しっかりと意識を持ったこの男は、演技が上手いこの男は、狸寝入りだったのだ。

「～～っ！ほら、早くご飯食べますよ！」

顔を真っ赤に染め上げて声を荒らげる私は、憎らしいほど『何も無かったように装う』なんて演技が出来ないのだ。

一瞬ムスッとした密さんだが、たちまちクスリと不敵な笑みを浮かべて

「……大胆、だね」

そう、私の視線を逃さない眼差しで言ったのだった。