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彼の本業はアイドルであって、俳優ではない。

でも敵わない。

その事実に泣きそうなぐらいの焦燥感を抱いた。

彼に追いつきたい。

彼に___

「…水ちゃん?」

現実に引き戻される。

呪いのようなものが私を飲み込んでいた。

「…私、平野っちみたいになりたいや」

そう呟いた言葉で、彼が大きく目を見開く。

「俺みたいになんかならないほうがいいって」

笑いながら言う声は、あながち冗談にも聞こえない。

「…俺は、全然優しくないから」

優しくないってどういうことだろう、

でも、彼はその言葉を追及させない雰囲気を持っていた。

____

これから撮るのは美波ちゃん演じる妹の陽音とのシーン。

陽音は冷より3歳年下で中学3年生。

その名の通り太陽のような子で、冷が心を開いている数少ない相手。

いつもニコニコしているからバカに見られることもあるけど、勘がとても鋭い。

だから姉の変化にも敏感に気がついている。

『3,2,1,はい!』

「ただいま」

冷は家に帰る。

頭の中に渦巻いているのは彰との会話。

「おかえりお姉ちゃん」

出迎えてくれるのはいつも陽音だ。

母も父も仕事で忙しいから。

「今日学校どうだった?」

彼女は母親のような言葉を何の嫌味もなく言える。

「…別に何も。クラスメートがうるさかっただけ」

深く考えずにそう返した冷の言葉。

「…うるさかったって、」

「私に構わないでほしいのに話しかけてくるんだもん」

冷は、孤独でいたいと願っているから。

「…お姉ちゃん、変わったね」

陽音は笑いながら言う。

美波ちゃん本当に演技上手いな、

「…変わったって何が」

彼女はずっと姉を見てきたから分かるのだ。
中学時代との決定的な違いに。

「お姉ちゃんは前は人を突き放すようなこと言わなかった」

「こんなに冷たくなかったよ」

陽音は良くも悪くも正直なのだ。

決して悪意を持っているわけではない。

でも美波ちゃんはここにアレンジを加えて、少し咎めるような調子にしている。

「……人間だって変わるものでしょ」

私も、変わったんだよ。

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作者名: x他1人 | 作成日時:2020年8月11日 0時

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