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そして私と平野っちも撮影再開。
今から撮るのは、冷と彰が初めてお互いの過去を打ち明けるシーン。
「上手くやろうね」
横浜さんとは事前に打ち合わせをしたけど、彼との場合はぶっつけ本番でも大丈夫な気がする。
『3,2,1, はい!』
「…あなたみたいに明るい人が、私を理解できるわけないじゃない」
この時はまだ、冷は彰という人間を知らなかったんだ。
「…本当にそうだと思う?」
彰が声を出した。
瞳から一瞬で光が消えている。
「…俺のことこそ、宮永さんには分からないと思うよ」
「俺は親がいない。これを知った途端みんな俺から離れてくんだよ」
心臓がドクンと鳴った。
彼の演技が圧倒的すぎる。
「それが嫌だから必死で隠してるんだ。明るい振りをしてるんだ」
酷く傷ついたようなその声。
「…そう、だったの」
辛うじて繋いだ。
本当に今セリフが飛びかけた。
「俺さ、これ言ったの宮永さんだけだよ」
彰はとても狡い人間だ。
“自分の秘密を言ったかどうか”で相手に自分は特別なんだと錯覚させる。
実際は、彰はその“秘密”をたくさんの人に言っている。
だからそれはもはや秘密ではないんだ。
「私だけに言おうがどうでもいい」
「その事実に価値があるとは思わない」
冷はそう言って屋上を立ち去る。
彰がそれまでと違う目で冷を見ていることには気づかずに。
____
『カット!』
『2人ともいい感じだよすごく!』
思わず平野っちと顔を見合わせる。
「やったね、俺ら褒められたよ」
彼はおどけてみせるけど、私は心から喜ぶ気にはなれなかった。
今、本当に一瞬だったけど、彼に飲み込まれた。
まだ私は自分の演技を高めないといけない。
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作者名:舞 x他1人 | 作成日時:2020年8月11日 0時