第八話 ページ8
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相変わらず、窶れた様に笑う女性。
それは、いつのまにか狂気を帯びている様にも見え始めた。
ちらりと、猫に視線を移す。
行儀よく前足を揃え、長い尻尾を足に巻きつけ座っている。
その首元には、首輪も____鈴も、何もついていなかった。
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『…月永、レオさんですよね』
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オンナは、ゆっくりと言葉を紡いだ。
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『【チェス】から【knights】に変わるまで、ずっと応援してました。
けど、何をきっかけにしたのか、貴方は全くステージに姿を見せなくなって』
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自分を知っているソンザイに、月永は目を見開く。
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『【バックギャモン】も、【オセロ】も好きでしたけど…
貴方が《王》を務めたユニットは、もっと好きだった』
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一歩、近づいていた足を後退させる。
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『夢ノ咲学院が変わっていく中で、
貴方は生き残ろうと【デュエル】を開き続けた。
…そして貴方は、《人殺し》になってしまった』
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恐怖に、歯の奥が震える。
先程までの、目の前のオンナとの会話なんて一ミリも覚えていない。
ただ、月永を罵倒する言葉に、ノイズに、音が変わっていく。
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『貴方の作る曲が、貴方の歌が、貴方の踊りが、好きでした。
こんな言い方は、あれかもしれないですけど____』
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堪らずに、月永は背を背けて駆け出した。
転びそうになりながら敷地に戻って、扉に手をかける。
重々しい音を立てて扉が開き、そこに体を滑り込ませた。
扉が閉まる直前に、声が聞こえた。
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『____貴方という存在が好きです。
アイドルとして、月永レオとして、生まれてきてくれてありがとう』
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パタン。
空気が抜けるように、扉が閉まる。
音が遮断される。
意識が消えかける。
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『____もう一度、貴方の歌を聞きたかった』
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____鈴の音が、耳元で響いた。
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作者名:皮肉屋** | 作成日時:2020年8月26日 22時