意 ページ34
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人影がある場所に近づくにつれ、紙と紙が擦れ合う音が大きくなっていく。
影もはっきりとしていって、1番に見えたのは綺麗な横顔だった。長い睫毛と筋の通った高い鼻。吸い込まれそうな、儚いような顔。
あまりにもその顔が綺麗で、震えていた足もいつの間にか止まっていて、その場から動けそうになかった。
すると、その人影は立ち上がり、店内の本棚へと手を伸ばした。
気付いたら俺は伸ばした手を掴んでいた。
｢…えっと……｣
『あっ……ごめん』
手を引っ込ませて、自分の背中に回す。
『…俺は、』
｢待ってください！名前、思い出しますから｣
名前を言おうとすると、待ったをかけ、ふにゃりと笑った。俺の名前を必死に思い出そうと頭を悩ませるAくんが可愛くて仕方がない。
｢あ！…あ？……えーっと…じょ、じょーしゅ…あ？じょしゅあ？ジョシュアさんだ！｣
俺の名前を連呼しながら思い出せたことに喜び、すごく楽しそうに笑う君を今すごく抱きしめたい。
『覚えててくれたんだ…』
｢店主さんがジョシュアさんが帰った後に色々教えてくれたんです。ジョシュアさんはどんなご職業をされていて…僕の記憶がなくなる前、どういう関係だったのかを｣
『じゃあ…近くのアイドル事務所に居るってことも…？』
｢もちろん知っています。凄いですね。アイドルなんて、ほんのひと握りしかなれないのに｣
彼が以前豆を挽いていたカウンターを眺めながらAくんは話す。
俺に気を使ったのか、そこまでしてくれていたなんて。本当に感謝しかない。
『今日はなんでここに？』
｢僕は記憶が無くなっていることをジョシュアさんも知っていますよね？…僕が少し前にここで働いていたと聞いて、記憶が戻るかなと思って記憶の欠片を探しに来たんですけど…本を読んでも匂いを嗅いでも、何もわかりませんでした｣
そう話すAくんはすごく寂しそうな目を近くのコーヒーミルに向けていた。そのコーヒーミルはAくんがとても愛用していたものだった。
｢ジョシュアさんは、なんで？｣
『俺は…』
好きだと言え。頭の中では分かってて、脳はそう司令をかけ続けているのに口は思うように動かず、別のことを言い出してしまう。
『…君に謝りたくて、会いに来た』
｢謝り…？｣
『そう。最後に会った時、俺、君に痛い思いをさせちゃった。ほんとにごめん』
｢あぁ…あれは全然大丈夫です！そんなに痛くもなかったですし｣
俺はどうしてこうも素直になれないのか。
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作者名：ピーナッツバター | 作成日時：2021年8月2日 2時
