涙 ページ26
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彼の頬に手を滑らせる。
そっと親指で頬を撫でてから目の下の部分にぐっと力を入れた。
その目だけを。
｢！っ痛いっ！｣
はっと我に返った時には、Aくんは俺と壁を作るように手の平を俺に向け、顔を隠していた。
『…っごめんっ……』
居ても立っても居られなくて、俺は病室から逃げ出した。
Aくんが俺に向ける表情は恐怖に満ちて、怪物でも見るような目をしていたから。
どうして。
俺はいつも彼の前では空回りをするんだろう。
Aくんが居たらそれは楽しいなんて言ったけれど、やっぱり楽しくなんかない。
自分が傷付くだけだった。
｢…シュアヒョン……おかえり｣
『……ん、』
宿舎に戻ると、真っ先に玄関に現れたのはディノ。
いつもは嬉しいのに、今日は誰にも会いたくないし、話したくもない。
｢ヒョン、疲れてるでしょ？昼間だけどいっぱい飲まない？ほら、他のヒョンたちも好きなことしてるし…！｣
『……いい』
｢…そ、そっか｣
｢ディノ、外行くよ｣
｢うん…ちょっと待って｣
ウジが空気を読んだのか、ディノを外に連れ出してくれた。
俺は無言で自分の部屋に入る。
上着を脱ぎ捨て、ベッドに飛び込んだ。
『はぁ……何やってんだろ』
部屋に自分の溜息が響き渡る。
どんなに後悔したって時間は二度と巻き戻らない。
今、自分がどんなにイライラしようとも遠くにいる彼の記憶が戻るわけが無いし、気持ちも変わらない。
携帯で高次脳機能障害について調べていると、突如店主さんからメールが。
メールを開くと、そこには2枚の写真が貼ってあった。
俺とAくんが初めて出会った時のツーショット。
二人は楽しそうに笑っている。
2枚目は俺とAくんが本気で楽しそうに会話している所を撮った写真。
嗚呼、こんなことがあったんだな、と懐かしむ気持ちが出たと共にまた胸が締め付けられるような思いになった。
どうして、今こんなことを。
"常連さんの中でも一番ジスさんとお話する時間が好きです"
"ふふっ、それほんと？"
"ほんとですってば！僕は嘘なんかつきません！"
"ありがとう＿＿＿＿＿"
頭の中で幸せだった頃の記憶がエンドロールのように流れていった。
生理現象かと思わせるほど、涙が沢山溢れでてくる。
好き。
抱き締めたい。
キスしたい。
そんな気持ちが涙に変わって溢れるように。
声を殺し、部屋で涙を流し続けた。
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作者名：ピーナッツバター | 作成日時：2021年8月2日 2時
