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｢いらっしゃいませ！｣
『おはよう』
今日もコーヒーを買いにやってきた。
昨日と引けを取らない程元気な挨拶をするAくん。
他の常連さんもすごく彼のことを気に入ったようで、カウンターには沢山のお客さんが。
『すごい人気だね』
｢お陰様で沢山お話させてもらってます！あ、アメリカーノコーヒーのトールサイズでいいんですよね？｣
『うん。お願い』
｢はい！｣
一つ一つの返事がすごく爽やかで聞くだけで元気になれる気がする。
｢あ、お名前を伺ってもいいですか？｣
『名前…？』
｢常連さんのことは覚えておきたいし、名前で呼びたいので！｣
すごくいい事だとは思うけど、今の俺にとってはちょっとピンチ。
完全な偽名を使う訳にはいかないけど、俺の本名は検索すれば沢山でてくるしな…だからといって堂々と"ジョシュアです"だなんて言えるわけが無い。
出来れば彼には有名人の俺ではなく常連の俺で接して欲しい。
『あー……チョン・ジスです』
｢ジスさん！覚えました！いい名前ですね！｣
『ふふっ、ありがとう』
ごめんね、ウォヌ。今度お礼するから今の間だけ苗字を貸してね。
｢ジスさんって凄いイケメンさんですよね。何かされてます？｣
『いや？俺は普通に働いてるだけ』
｢えぇ！じゃあ会社ではモテまくりなんじゃないんですか〜？｣
『いやいや、そんなことないよ。Aくんだって顔整ってるんだし、彼女居るんじゃない？』
｢あ！話逸らした〜…まあ、居ましたけど…もう別れました。彼女が留学行っちゃって遠距離はお互い無理だったので｣
Aくんの恋バナを聞きつつ、数ある質問を幾つか躱しているとコーヒーが出来上がった。
｢…今度ジスさんのこと色々聞かせて下さいよ…？｣
『うん。今日はあんまり話してあげられなくてごめんね。また明日来るよ』
｢待ってます！｣
彼に"待っている"という言葉を聞くだけで心が躍るのは俺だけだろうか。
俺はアメリカーノを頼んだはずなのに、コーヒーは何故か甘かった。
多分、Aくんが渡す人を間違えたんだろうけど可愛いし、まだ入ったばかりだから許してあげよう。
そのコーヒーはミンギュにあげて、俺はまた別に缶コーヒーを買った。
でもやっぱり苦さと"新鮮さ"が違う。
｢ジスヒョ〜ン…なんでニヤニヤしてるんですか｣
『ううん、朝のことを思い出しただけ』
彼のことを知っているのは俺だけ。
俺だけの秘密で、俺だけの日常。
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作者名：ピーナッツバター | 作成日時：2021年8月2日 2時
