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パタパタと手で顔を仰いでみる。少し暑く感じるのは人が沢山いるからだろうか。
沢山の人を眺めながら顔を仰いでいたら、ふと車椅子が動いてビクリとする。慌てて振り向くとそこには糸師さんが無表情で車椅子を押していた。
「あ、あの?」
「暑いんだろ」
そう言いながら車椅子を押される先には小さなバルコニーがある。何をしようとしているのか察してありがとうと掛けた声に、返事は返らない。
そのままバルコニーに出ると、夏になりかけの湿った空気が肌を撫でた。
糸師さん以外が誰も見ていないのを確認して、大きく伸び上がる。こんなこと、普通こんな場ではマナー的にまずいけど。
「糸師さんもお疲れでしょう?」
「別に。…また、ってこういう意味かよ」
「え?ああ…そういえば、言ったかも」
よく覚えてたな、なんて思って笑う。あの時は特に深く考えないまま、そのうちまたどこかで会えるだろうと思って言ったんだけど。
無言が落ちて、なんとなく隣に立つ糸師さんの顔色を伺ってみる。
「…あの」
「あ?」
こんなことを聞くのは、私たちがお互いのことをよく知らないから出来ること。
「親に結婚決められたら、どうしたらいいんでしょう」
「は?」
「すみません、急に。ちょっと、他の人の意見も聞いておこうかと…」
彼は目を剥いて私をじっと見つめ、やがて本日何度目かの溜息を吐き出した。
「知るか。住む世界が違いすぎる」
「ですよね…」
私だって思う。一体いつの時代なんだか。
俯く私に彼はまあ…と続ける。
「駆け落ちでもすりゃ良いんじゃねーの」
「駆け落ち…」
好きな人が、もし出来たらって意味だよな。あと1年の内に。
1年がタイムリミットだ。それまでに。
分からない未来への不安で心が揺れる。それを宥めるように、そっと胸元をさすった。
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瑠璃烏(プロフ) - エリザベス女王さん» そんな風に言って頂けて嬉しいです!玲王は考察の余地を残そうと思って最後まではっきりとしたことは敢えて書いてないので、ご自由にご想像頂ければと思います😌見て頂きありがとうございました! (4月7日 14時) (レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
エリザベス女王(プロフ) - どんな気持ちで助けていたのか、、、考えても考えてもまとまりません!冴くんがただひたすらにかっこよくてずっと三途の川を泳いでました!本当に最高でした!!ありがとうございました😭 (4月7日 11時) (レス) id: 2cb2cc3e09 (このIDを非表示/違反報告)
エリザベス女王(プロフ) - 最高でした、、、‼︎主様の前作を読んでそこのリンクから飛んだのですが安定の最高さでした❤️駆け落ち系の話を見たことがなくて不安だったのですが初めてがこんな素晴らしい作品だだだ私は明日やらでも降るのかもしれません笑玲王くんはいったい (4月7日 11時) (レス) @page44 id: 2cb2cc3e09 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃烏(プロフ) - ニアさん» コメントありがとうございます!素敵な考察までして頂けて嬉しいです!2人とも本当にいいキャラですよね! (4月2日 12時) (レス) @page43 id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
ニア - この作品を読んでから2人をめっちゃ好きになりました!最後の切ない感じが最高でした…御影くん実は夢主ちゃんのこと好きだったんじゃないか…だから微笑んだんじゃないかとか色々考えていたら切なさときゅんきゅんが止まりません…ありがとうございました!! (4月2日 10時) (レス) id: b8d76587d9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年3月6日 11時