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「糸師さんはスペインにいるのかと。帰ってらしたんですね」
「今はオフシーズンなんで」
「敬語じゃなくていいです。オフシーズン、満喫されてますか?」
「まあ」
手に持っていたグラスからドリンクを飲み込んで、2度目の溜息が落とされる。本当に面倒くさいんだな。
彼はうちがスポンサーをしている選手の1人で、パーティーでは初めて会ったかもしれない。
「あんた、いじめられてんのか」
「はい?えっと…?」
突然そんなことを言われると思っていなくて、返事が咄嗟に出なかった。
でもそれが初めて会ったあの廊下でのことを指しているのだと思い至って苦笑する。
「あ〜…まあ、ちょっとだけ?」
「縁切れよ。何してた」
「アフタヌーンティーを一緒に。その帰りに、送ってくれるって言って車椅子押して貰ってたんですけど…その途中で、まあ。あんな感じで」
元からアフタヌーンティーなんか行かなきゃ良いんだけど、母が楽しそうね、なんて言うから断れなかった。
というのは言い訳になるだろう。要は私の危機管理能力が足りなかっただけの話だ。
糸師さんは眉を顰めてまた溜息を吐き、腰に手をやって吐き捨てる。
「なんで親に言わねえんだ。そうすりゃ1発だろ」
「そんなこと言ったら…あの子達、社会的に抹消されちゃうかもしれないから」
「…難儀なもんだな」
あんな嫌がらせ、私が我慢すれば済む話だ。
それでも糸師さんが怒ってくれるのは嬉しくて頬を緩ませる。
私は糸師さんのサッカーが大好きだ。美しくて、計算され尽くしたような、幾何学的な美しさを感じるサッカー。
ファンと言って差し支えない。10年前に歩けなくなるまではサッカーをやっていたから、同年代で天才がいると話題になっていたのを覚えている。
なんだかこうして会ってみると何を話していいのか分からない。
彷徨わせた視線がふとスマホに止まって、思い切って声を上げた。
「あのっ」
「あ?」
ぎゅ、とスマホを握り締めて隣でグラスを揺らす糸師さんを見上げる。
「連絡先、良ければ交換して頂けませんか…?サッカーのお話、聞きたくて」
そう口にすると彼は微かに目を見開き、少し考える素振りを見せてからポケットに手を突っ込んだ。
そして差し出されたQRコード。高鳴る胸を抑えるように手を当てながら、それを読み込んだ。
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瑠璃烏(プロフ) - エリザベス女王さん» そんな風に言って頂けて嬉しいです!玲王は考察の余地を残そうと思って最後まではっきりとしたことは敢えて書いてないので、ご自由にご想像頂ければと思います😌見て頂きありがとうございました! (4月7日 14時) (レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
エリザベス女王(プロフ) - どんな気持ちで助けていたのか、、、考えても考えてもまとまりません!冴くんがただひたすらにかっこよくてずっと三途の川を泳いでました!本当に最高でした!!ありがとうございました😭 (4月7日 11時) (レス) id: 2cb2cc3e09 (このIDを非表示/違反報告)
エリザベス女王(プロフ) - 最高でした、、、‼︎主様の前作を読んでそこのリンクから飛んだのですが安定の最高さでした❤️駆け落ち系の話を見たことがなくて不安だったのですが初めてがこんな素晴らしい作品だだだ私は明日やらでも降るのかもしれません笑玲王くんはいったい (4月7日 11時) (レス) @page44 id: 2cb2cc3e09 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃烏(プロフ) - ニアさん» コメントありがとうございます!素敵な考察までして頂けて嬉しいです!2人とも本当にいいキャラですよね! (4月2日 12時) (レス) @page43 id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
ニア - この作品を読んでから2人をめっちゃ好きになりました!最後の切ない感じが最高でした…御影くん実は夢主ちゃんのこと好きだったんじゃないか…だから微笑んだんじゃないかとか色々考えていたら切なさときゅんきゅんが止まりません…ありがとうございました!! (4月2日 10時) (レス) id: b8d76587d9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年3月6日 11時