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「初めまして。御影玲王です」
柔らかでありながら作り物だと分かる笑顔で、彼は頭を下げた。それに合わせて頭を下げ、私からも名乗る。
「は、初めまして。九條Aです。あの、すみません。座ったままで…」
「ああいえ、聞いてます、脚のこと。今は平気なんですよね?」
「ええ。ご心配ありがとうございます」
たったこれだけの会話でお互いの両親は「仲良くなれそうでよかった」なんて言っている。そんなのこれしきじゃ分からないだろうに。
綺麗なワンピースドレスを身に纏い、髪の毛も品よくまとめられている。
味のしない会食が始まった。
「敬語、無しにしません?同い年でしょう?呼び方も適当でいいですよ」
「あ…はい。御影、くん」
「おう。じゃあ俺も九條って呼ぶな」
「あら、名前で呼んでもいいんですよ?いずれ同じ名字になるんだもの」
「マ…んんっ、お母さんってば。御影くん、気にしないで」
御影くんは軽やかに笑って、じゃあそのうち、なんて言ってくれる。社交性の高い人なんだなと思った。
*
「九條、顔色が良くない。一回出るか」
「あら…本当ね。少し外の空気を吸っていらっしゃい。玲王さんと一緒なら安心できるわ」
「う、うん。じゃあ、少し…」
「分かった。車椅子、移れるか?」
「あ…ありがとう」
御影くんの差し出す手を取って脇を抱えられながらゆっくりと車椅子へ移り、そのままハンドルを押されてバルコニーへ出た。
夜風は今の私には心地よくて、大きく息を吸い込んでは吐き出す。
「あんな空気じゃ気分悪くもなるよな。平気?」
「大丈夫。ごめんなさい、着いてきて貰っちゃって」
「気にすんなよ。それよりさ、ちょっと相談なんだけど」
「うん、なに?」
御影くんはバルコニーの手摺りに両腕をついたまま顔だけでこちらを振り向き、静かに問う。
「俺と結婚すんの、嫌?」
「え……」
そんな急に言われても、すぐには答えられなかった。
まだ会ったばかりだけれど、既に彼が悪い人じゃないことは分かる。結婚を断ろうとは思わない。でも逆に、結婚したいかと言われてすぐには頷けない。
「…ま、すぐには分からねえよな。だからさ、提案があんだけど」
「提案…?」
「恋人ごっこ、しようぜ」
御影くんは大きな瞳を三日月型に歪ませて、ニッと笑った。
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瑠璃烏(プロフ) - エリザベス女王さん» そんな風に言って頂けて嬉しいです!玲王は考察の余地を残そうと思って最後まではっきりとしたことは敢えて書いてないので、ご自由にご想像頂ければと思います😌見て頂きありがとうございました! (4月7日 14時) (レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
エリザベス女王(プロフ) - どんな気持ちで助けていたのか、、、考えても考えてもまとまりません!冴くんがただひたすらにかっこよくてずっと三途の川を泳いでました!本当に最高でした!!ありがとうございました😭 (4月7日 11時) (レス) id: 2cb2cc3e09 (このIDを非表示/違反報告)
エリザベス女王(プロフ) - 最高でした、、、‼︎主様の前作を読んでそこのリンクから飛んだのですが安定の最高さでした❤️駆け落ち系の話を見たことがなくて不安だったのですが初めてがこんな素晴らしい作品だだだ私は明日やらでも降るのかもしれません笑玲王くんはいったい (4月7日 11時) (レス) @page44 id: 2cb2cc3e09 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃烏(プロフ) - ニアさん» コメントありがとうございます!素敵な考察までして頂けて嬉しいです!2人とも本当にいいキャラですよね! (4月2日 12時) (レス) @page43 id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
ニア - この作品を読んでから2人をめっちゃ好きになりました!最後の切ない感じが最高でした…御影くん実は夢主ちゃんのこと好きだったんじゃないか…だから微笑んだんじゃないかとか色々考えていたら切なさときゅんきゅんが止まりません…ありがとうございました!! (4月2日 10時) (レス) id: b8d76587d9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年3月6日 11時