32. ページ32
.
東京の中心から電車に揺られて1時間半。松葉杖を見て席を譲ってくれた人のお陰で割と快適にここまでやってこられた。
目の前に広がるのは一面の
「すごい…!」
「東京湾よりは綺麗だろ」
「ええ、とっても。いいなあ、こんな所で育ったんですね」
冬の海辺はびっくりするほど寒いけれど、開放感あふれるこの景色を見ればそれでも良かったと思える。
いつも両親に見守られているから、それから解き放たれるような気がして。
「いいなぁ…」
私も、こんな場所で育ってみたかった。
手袋に包まれた両手を、腕を大きく広げてみる。全身に潮風を受けるともっと開放感に包まれた。
「お前さ」
「はい?」
「敬語やめろ。うぜえ」
「え…あ、はあ。わかりま…わ、かった」
「呼び方も。苗字やめろ。凛と区別つかねえだろ」
「じゃあ…冴くん?」
顔に熱が昇っていくのを感じながらながら呼んだその声を聞いて、彼は満足げに頷く。なにそれ、その顔はちょっと可愛いな。
思わず笑ってしまう私を怪訝そうに見つめるのに首を振って、白い息を吐き出した。
*
「ただいま」
「おかえり…あら冴、そちらは?」
「…友達。九條A」
「初めまして。突然お邪魔してしまって申し訳ありません、九條Aと申します」
頭を下げると奥さんはあらあらと頬に手をやり、それから笑顔で上がるよう促された。それにまた会釈して靴から足を引き抜く。
通されたリビングでソファに座るよう言われて、失礼しますとひと言添えて腰を下ろす。冴さんはキッチンへ奥さんを手伝いに行った。
少し待っているとティーセットとお菓子の載ったお皿がやって来て、私もよく食べるそのクッキーに頬を緩める。
「こんなものしかないんだけど。紅茶、アールグレイは好き?」
「大好きです。ありがとうございます」
「そう、よかったわ」
そう言って奥さんはカップに紅茶を注ぎ、私に向けて差し出してくれる。それを受け取って香りを吸い込んだ。
華やかな柑橘系の香り。定番の紅茶だ。
「ごめんね冴、これから買い物に行かなきゃいけないの。任せてもいい?」
「ああ」
「ごめんなさい九條さん、失礼しますね」
「気になさらないで下さい。大丈夫ですよ」
奥さんはエプロンを外し、少しすると家を出て行く音がした。
.
168人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
瑠璃烏(プロフ) - エリザベス女王さん» そんな風に言って頂けて嬉しいです!玲王は考察の余地を残そうと思って最後まではっきりとしたことは敢えて書いてないので、ご自由にご想像頂ければと思います😌見て頂きありがとうございました! (4月7日 14時) (レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
エリザベス女王(プロフ) - どんな気持ちで助けていたのか、、、考えても考えてもまとまりません!冴くんがただひたすらにかっこよくてずっと三途の川を泳いでました!本当に最高でした!!ありがとうございました😭 (4月7日 11時) (レス) id: 2cb2cc3e09 (このIDを非表示/違反報告)
エリザベス女王(プロフ) - 最高でした、、、‼︎主様の前作を読んでそこのリンクから飛んだのですが安定の最高さでした❤️駆け落ち系の話を見たことがなくて不安だったのですが初めてがこんな素晴らしい作品だだだ私は明日やらでも降るのかもしれません笑玲王くんはいったい (4月7日 11時) (レス) @page44 id: 2cb2cc3e09 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃烏(プロフ) - ニアさん» コメントありがとうございます!素敵な考察までして頂けて嬉しいです!2人とも本当にいいキャラですよね! (4月2日 12時) (レス) @page43 id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
ニア - この作品を読んでから2人をめっちゃ好きになりました!最後の切ない感じが最高でした…御影くん実は夢主ちゃんのこと好きだったんじゃないか…だから微笑んだんじゃないかとか色々考えていたら切なさときゅんきゅんが止まりません…ありがとうございました!! (4月2日 10時) (レス) id: b8d76587d9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年3月6日 11時