27. ページ27
.
もう一歩を踏み出そうとして足が思うように上がらずつんのめる。
「A!」
「っと…大丈夫だよ、パパ。まだ歩けるよ」
「もういい、休もう。お願いだよ、A…」
「…うん、分かった」
必死な顔で止める父にノーと言えずゆっくりと車椅子に戻って、背もたれに背中を預けて息を吐いた。
1人で自由に歩けるようになるにはやっぱりまだまだ練習が必要そうだ。
車椅子を押されて私の部屋に戻ると父は付き人におやつの用意を頼んだ。それを待っている間、父が少し躊躇いがちに口を開く。
「A、聞きたいことがあるんだが」
「ん?なあに、パパ」
「…糸師冴さんのことだ」
「え…?」
どうかしたのかと首を傾げる私の頬に手を添えて、父は悲しそうな顔をする。
「パーティーで、バルコニーにいた時。何をしていた?あんな風に抱き上げられて…」
「あ……」
見られてた。心臓がヒュッと持ち上がるような感覚に胸元を引っ掻く。どうしよう、どうやって言い訳するのが正解なんだろう。
視線を彷徨わせる私に父は続ける。
「無理に歩かせて転んだところを抱き上げるなんて…A、彼にはあまり近付かないようにしなさい」
「そ、そんなっ…違うよ!冴さんは、私を励ましてくれてたの!私が歩けるようになろうと思ったのも、彼の…っ」
しまった。口を滑らせたと思って口を手で覆ったけれど既にそれは遅く、父は顔を顰めて語気を強めた。
「A、約束しなさい。あの人にはもうあまり近付かないこと。おまえには玲王くんがいる。他の男に気を許しちゃダメだろう」
「で、でも私は…」
「A」
両手で頬を捕まえられて、無理やり真っ直ぐに視線が合う。お願いだからと懇願されると私は断れない。これ以上心配かけたくないって思ってしまう。
体から力を抜いて、頷いた。
「…はい、パパ」
.
168人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
瑠璃烏(プロフ) - エリザベス女王さん» そんな風に言って頂けて嬉しいです!玲王は考察の余地を残そうと思って最後まではっきりとしたことは敢えて書いてないので、ご自由にご想像頂ければと思います😌見て頂きありがとうございました! (4月7日 14時) (レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
エリザベス女王(プロフ) - どんな気持ちで助けていたのか、、、考えても考えてもまとまりません!冴くんがただひたすらにかっこよくてずっと三途の川を泳いでました!本当に最高でした!!ありがとうございました😭 (4月7日 11時) (レス) id: 2cb2cc3e09 (このIDを非表示/違反報告)
エリザベス女王(プロフ) - 最高でした、、、‼︎主様の前作を読んでそこのリンクから飛んだのですが安定の最高さでした❤️駆け落ち系の話を見たことがなくて不安だったのですが初めてがこんな素晴らしい作品だだだ私は明日やらでも降るのかもしれません笑玲王くんはいったい (4月7日 11時) (レス) @page44 id: 2cb2cc3e09 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃烏(プロフ) - ニアさん» コメントありがとうございます!素敵な考察までして頂けて嬉しいです!2人とも本当にいいキャラですよね! (4月2日 12時) (レス) @page43 id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
ニア - この作品を読んでから2人をめっちゃ好きになりました!最後の切ない感じが最高でした…御影くん実は夢主ちゃんのこと好きだったんじゃないか…だから微笑んだんじゃないかとか色々考えていたら切なさときゅんきゅんが止まりません…ありがとうございました!! (4月2日 10時) (レス) id: b8d76587d9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年3月6日 11時