２２. ページ22
.
そして待ち望んだ日は、案外早くやってきた。
松葉杖は相変わらず。でも少しの距離なら何にも掴まらずに歩けるようにはなった。彼が示したあの距離を歩けるように、必死にリハビリしたから。
両親は先に会場へ行ってしまったから1人きりの道すがら、不意に背中を押されてバランスを崩す。
「わっ…！」
「あら、ごめんなさぁい」
あはは、と笑う数人の声。そのまま通り過ぎて行くのを黙ったまま見送り、大きな溜息を吐き出す。
立ち上がるの、大変なのにな。
「おい」
「え…？」
背後から焦がれた声が聞こえてきて勢いよく振り向いた。
「糸師さん！」
「何してんだお前」
「あ…ちょっと、転んじゃって」
正直それどころじゃない。会えたことが嬉しくて幸せで、1秒も無駄にしたくなくて。
立ち上がろうともがく私を見て彼は溜息を吐き、歩み寄ってくるとそっと抱き上げられた。それに息を止めてしまったのは反射だった。
抱き上げられたところからそっと足を伸ばして床に足の裏をつける。ちゃんとバランスが取れたことを確認して、彼の両腕は離れて行った。
「お久しぶりです。戻ってらしたんですね」
「ああ。両親に顔見せに。もう明日には帰る」
「そう、ですか…」
まあ、シーズン中なのに会えただけ幸運だ。そう言い聞かせて口を開く。
「あの、バルコニー行きませんか」
「…ああ」
松葉杖に体重を預けながら進める足は、今までのいつより軽かった。
パーティー会場の部屋へ入ると、両親が扉のすぐ近くにいて駆け寄ってきた。
「A、よかった。1人で大丈夫だった？」
「大丈夫。ちょっと糸師さんとお話してくるね」
「そうか？じゃあ糸師さん、後でご挨拶に伺いますから、それまでよろしくお願いします」
「はい」
一瞬だけ松葉杖から手を離し、ぶらぶらと揺らして腕を休ませてから再び足を踏み出した。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 168人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
瑠璃烏(プロフ) - エリザベス女王さん» そんな風に言って頂けて嬉しいです！玲王は考察の余地を残そうと思って最後まではっきりとしたことは敢えて書いてないので、ご自由にご想像頂ければと思います😌見て頂きありがとうございました！ (4月7日 14時) (
レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
エリザベス女王(プロフ) - どんな気持ちで助けていたのか､､､考えても考えてもまとまりません！冴くんがただひたすらにかっこよくてずっと三途の川を泳いでました！本当に最高でした！！ありがとうございました😭 (4月7日 11時) (レス) id: 2cb2cc3e09 (このIDを非表示/違反報告)
エリザベス女王(プロフ) - 最高でした､､､‼︎主様の前作を読んでそこのリンクから飛んだのですが安定の最高さでした❤️駆け落ち系の話を見たことがなくて不安だったのですが初めてがこんな素晴らしい作品だだだ私は明日やらでも降るのかもしれません笑玲王くんはいったい (4月7日 11時) (レス) @page44 id: 2cb2cc3e09 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃烏(プロフ) - ニアさん» コメントありがとうございます！素敵な考察までして頂けて嬉しいです！2人とも本当にいいキャラですよね！ (4月2日 12時) (レス) @page43 id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
ニア - この作品を読んでから2人をめっちゃ好きになりました！最後の切ない感じが最高でした…御影くん実は夢主ちゃんのこと好きだったんじゃないか…だから微笑んだんじゃないかとか色々考えていたら切なさときゅんきゅんが止まりません…ありがとうございました！！ (4月2日 10時) (レス) id: b8d76587d9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：瑠璃烏 | 作成日時：2024年3月6日 11時
