19. ページ19
.
病院のリハビリテーション科の中、今日も手摺りに掴まって足を動かす。
「っ……!」
「おっと」
「A!」
「また立てる?」
「はい」
傍で見守っていた母に抱きすくめられながら左右の手摺りに強く掴まって、バランスを崩しかけた体を腕で支える。自分で車椅子のタイヤを動かすから腕の力だけは謎にあるのだ。
母は恐る恐るといった風に手を離した。
「A、休憩にしましょう?ね?」
「ううん、もうちょっと」
「A…」
泣きそうになる母を見て目を逸らした。こんなに必死になっていたら、もしかして20歳になったからとは別の理由があるってバレるかな。
母の手をそっと解いて、また体重を足に掛ける。ゆっくり、重心を移動して。一歩、また一歩と足を出した。
*
少し開いた扉の向こうから聞こえてくる声に、タイヤを回す手が止まる。
「怖いのよ…」
「ああ、分かっているよ」
「もし…っもしあの子にまた何かあったら、私は…!」
「それは僕も同じだ。大丈夫、ちゃんと見ていれば問題ないさ」
「うぅ……」
タイヤを握る手に力が籠る。静かに啜り泣く声に俯いた。
やっぱり。嫌なんだ、ママもパパも。私が自由に歩き回れるようになったら困るんだ。
それを考えると今やっていることは両親への裏切りのような気がして胸がザワザワする。このまま嘘を吐き続けて過ごすのが苦しい。
でも、だけど、仕方ないじゃない。あの人のところへ行きたいって思ってしまったんだから。
「ごめんなさい…」
小さく呟いて、自分の部屋へ車椅子のタイヤを転がした。
.
168人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
瑠璃烏(プロフ) - エリザベス女王さん» そんな風に言って頂けて嬉しいです!玲王は考察の余地を残そうと思って最後まではっきりとしたことは敢えて書いてないので、ご自由にご想像頂ければと思います😌見て頂きありがとうございました! (4月7日 14時) (レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
エリザベス女王(プロフ) - どんな気持ちで助けていたのか、、、考えても考えてもまとまりません!冴くんがただひたすらにかっこよくてずっと三途の川を泳いでました!本当に最高でした!!ありがとうございました😭 (4月7日 11時) (レス) id: 2cb2cc3e09 (このIDを非表示/違反報告)
エリザベス女王(プロフ) - 最高でした、、、‼︎主様の前作を読んでそこのリンクから飛んだのですが安定の最高さでした❤️駆け落ち系の話を見たことがなくて不安だったのですが初めてがこんな素晴らしい作品だだだ私は明日やらでも降るのかもしれません笑玲王くんはいったい (4月7日 11時) (レス) @page44 id: 2cb2cc3e09 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃烏(プロフ) - ニアさん» コメントありがとうございます!素敵な考察までして頂けて嬉しいです!2人とも本当にいいキャラですよね! (4月2日 12時) (レス) @page43 id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
ニア - この作品を読んでから2人をめっちゃ好きになりました!最後の切ない感じが最高でした…御影くん実は夢主ちゃんのこと好きだったんじゃないか…だから微笑んだんじゃないかとか色々考えていたら切なさときゅんきゅんが止まりません…ありがとうございました!! (4月2日 10時) (レス) id: b8d76587d9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年3月6日 11時