知ってる ページ3
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「伊地知、七海とAが行ってるところまで」
「えっ？で、ですが五条さん、」
「あ？」
「ひッ…！は、はいっ！」
何やら携帯を持ってアタフタとしていた伊地知に早く車を出せと強請って軽く睨めば、何か言おうとした伊地知はあっさりと頷いた。
さっきの連絡を反芻しながら車に乗り込んで、優秀な後輩へ電話を掛ける。
出ねえし…
軽く舌打ちしてポケットへスマホを突っ込み、あの兄弟の事について考え始めた。
___あの家に行った時から、要くんにも呪力と術式があるのは分かっていた。
でも恵が、Aは「見えてないんじゃない？」と言っていたと言うから、きっと長いこと隠し続けて来たんだろうなと悟って。
ずっと突っ込まずに、何も言わずにいた。
要くんの術式は、��危険を察知する��術式。
血縁に限定されてはいるようだけど、その精度は恐らく100%と言っていい。
自分の身に、家族の身に降り掛かる災難や危険を察知出来る術式。
ストレスが諸に体調に出ると言っていたから、きっと要くんの頻繁な体調不良の原因は術式にもあると思う。
『兄さんが死んじゃうっ…！ねえ五条さんお願い、兄さんを助けて！僕には分かるんだ！』
咳混じりに捲し立てられたさっきの言葉を思い出して、ぐしゃりと前髪を乱す。
「はぁ〜〜っ…カノジョとか兄弟とか、僕の血縁ってどうしてこうも呪いめいた感じなワケ？」
今は外国にいる生徒の1人を頭に思い浮かべながら、大きなため息を吐き出した。
ーーー
「はぁ…はっ……一色さん…一色さん……っ」
何も見えない、真っ暗闇に独り。
小さく蹲って震える呼吸を繰り返しながら何度も何度も名前を呼んでいるけど、多分助かるまでには時間が掛かるんだろうなって気がする。
ーーここが何処なのか、僕は知ってる。
小さい頃、まだ母がいた頃、ここで夜を明かした数はもはや数え切れない。
もう顔も覚えていないけど
父が不倫で居なくなって、母は壊れてしまった。
何故か知らないけど僕が居るせいで父は居なくなったのだと僕を責めて、挙句の果てに自ら命を絶った。
もうあの人の事なんてどうだって良いんだけど。
過去なんか要らない。ただ今、この状況だけを見て先に進まなければ生きていけない。
僕はもう、それを知ってる。
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作者名：瑠璃烏 | 作成日時：2021年6月15日 14時
