あの子は ページ31
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「呪霊…全然いないっすね」
「しゃけ。こんぶ」
「はい。二級呪霊もまだ遠いかな」
側から見れば何故彼の言葉が分かるんだとAを凝視するところだろう。
緑の生い茂る森の中、走りながら辺りに注意するAと狗巻は時折目配せしては頷いて進んでいく。
ただ駆けていた2人がふと立ち止まり、Aが袖の中に手を突っ込んだ。
「よっ」
「…!」
投げられた呪具のナイフが呪霊を貫き、狗巻が目を輝かせてパチパチと手を叩く。
Aは地面に刺さったナイフを引き抜いてはにかんだ。
「あははっ、俺の術式戦闘向きじゃないんで。銃やら剣やらやら、あとは体術極めてかないと生き残れないんですよね」
「いくら、しゃけ」
「ふはっ…ありがとうございます」
激励の言葉にAはふにゃりと表情を緩め、行きましょうと足を踏み出した。
*
「あの子がその、泣き虫な?」
「あはははっ、そうそう。まあ慣れてないんだよね、血とか痛いのとか死体とか」
「へえ…」
それは大丈夫なのかと危惧する視線を冥から受けて、五条はひらりと片手を上げ答える。
「あの子は伸びるよ。出来ない所を残さない。妥協しない。徹底的に粗を潰していくっていうのが自分の力で出来る子だ」
「成る程ね。確かにストイックというのは重要なステータスだ」
「考える暇があったら手を動かす。手を動かすのと並行で解決策を思考して次の課題をインプットする。マルチタスクが得意なんだね。天才だよ」
「五条くんにそこまで言わしめるとはね。興味が湧いてきたよ」
ルージュの光る唇が妖しげに弧を描く。
狗巻と共に走るAを画面の奥に見つめながら、五条は続けて口にした。
「あの子ね、憂太の従兄弟なんだって」
「ほう?」
「おい悟、それは初耳だぞ」
「憂太って…あの乙骨?」
五条はそれぞれの反応に頷いて応え、窮屈そうに折り畳まれた長い脚を組み変えた。
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2021年4月29日 19時