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家守は学年でも有名な、謂わゆる『お嬢様』だった。
そのお嬢様ぶりと言ったら、なんと許嫁もいるという程で。
その許嫁は同じ学校の2つ年上の男子生徒で、2人は学校中で有名なカップルだった。
サッカーにしか興味のない俺でも知っている程度には話題だったのを覚えている。
2人は中学生にして既に左手の薬指にリングを嵌めていて、それまた学校中で有名な話だった。
それが、無い。
初めて顔を合わせたあの日の違和感はこれだった。
2歳差だから当然俺たちが2年になると男の方は高校へ上がり、学校も変わった。それでも家守はずっと着けていたのに。
『大切なものなの。これだけは絶対、失くせないんだ』
そう話しているのを聞いた事がある。
あんなに大切だと言い続け、ずっと身に付けていた物が無い。だから違和感を覚えたのだ。
「あ、おかえりなさい。ご飯できたところだよ。先にシャワー浴びてから?」
「いや、シャワーは浴びて来た。手ぇ洗ったら食べる」
「はーい」
帰って誰かがいるのに慣れるにはまだ時間が掛かりそうだ。
手を洗って食卓につくと、彩り豊かな料理がデーブルに並んでいる。
「…いただき、ます」
「どうぞー」
洗い物をしているらしい家守の声が返ってくるのを聞いてから、箸を持ち上げた。
その料理たちはどれも栄養バランスが取れていながら美味しいもので、なるほど頼んで正解だったなと胸中で独りごちる。
栄養バランスが取れた食事というのは味気なくなりがちだから。
もくもくと食べている間に家守は洗い物を済ませると、次は洗濯物を畳み始めた。
あのお嬢様がこうして家庭的な事をしていると何だか変な感じがする。
じっと注いでいた視線に気付いたらしい家守がこちらを見て微笑んだ。
「味、どう?薄くないかな」
「問題ない」
「よかった。いつもはカロリーとかあんまり気にしないから、ちょっと自信なかったの」
「そうか」
………会話が続かない。
だって家守とは元から『話したことはあるが親しくはない知り合い』くらいの距離感だ。
でも、なぜだろう。
会話がなくても居心地が悪いとは感じない。むしろこのくらいの空気感が心地よい気さえするから不思議だ。
結局その日は特に何か進展がある訳でもなく、夕食を食べた食器を片付けて家守は帰って行った。
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年1月27日 23時