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「おはよう、ひとみ」
「おはようA!ねえ聞いて聞いてっ」
「ちょっと待ってよ、荷物置くから」
更衣室に着くなりガバリと抱き付かれ、よろけて扉に背中を付ける。
私が荷物を置いて髪を結く間もずっとひとみはソワソワと落ち着かず、やっと手が空いた瞬間にまた抱き付かれた。
「潔くんが!潔くんが〜!」
「はいはい、なに?」
「あのねっ、笑いかけてくれたの!目が合ってね、笑って手振ってくれたんだよ〜!」
「そう、よかったじゃん」
「もっとそう思ってそうな顔してよ!」
もうキュンキュンする〜!なんて言いながら両頬を包む様は本当に可愛らしい恋する乙女そのもの。
潔くんとひとみが並んでいるところを想像してみる。
……うん。アリだな。悪くないどころかお似合いだ。
ズキンズキンと胸が痛い。でもこれはきっと鴨のヒナが初めて見たものを親だと認識するみたいなやつだ。
大丈夫。私はひとみを応援できる。できるんだ。そう何度も言い聞かせた。
*
「潔くん!」
「潔くんっ!」
ひとみと声が重なる。
目の前で起こった派手な接触。サッカーでは珍しくもない事ではあるけれど、だからいちいち反応しないなんて無理な話だ。
2人で駆け寄り、ゆっくりと手をついて上体を起こすのを支えた。
「潔くん、こっち見て」
「う…Aさん…?」
「…おっけー。この指、何本に見える?」
「3本…?お、俺平気だよ。大丈夫だから…」
瞳は揺れていない。視界も問題なさそう。頭が揺れていたらどうしようと思ったけれど、どうやら大丈夫そうだ。
でも一応頭を打っているから、この朝練は見送った方がいいだろう。
それを伝えると潔くんは嫌だと抵抗したけれど、前髪を撫で付けて真っ直ぐに視線を合わせる。
「大事になって困るのは潔くんだよ。我慢して」
「っ……わか、った」
「潔くん…」
「ひとみ、潔くんお願い。座らせておいて」
「う、うん」
「みんなはゲーム再開。ほら、始めるよ」
見るからに落ち込んでとぼとぼと歩いて行くのを見送り、さっき手放したスコアを付けているノートを拾い上げた。
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瑠璃烏(プロフ) - さっちゃんさん» コメントありがとうございます!悪女書くの苦手で…結局いい子になっちまったです。悪女断罪系もいつか書きたいです!閲覧ありがとうございます!! (5月6日 20時) (レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
さっちゃん(プロフ) - 途中から入ってくるマネって、だいたい悪女多いからそのタイプかぁ…とか思ってたらめっちゃいい子だった!面白かったです! (5月6日 17時) (レス) @page50 id: c5a0fb1f72 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃烏(プロフ) - 苺さん» ありがとうございます!悪女を書くにはまだ修行が足りない……いつか書きたいと思ってます! (2月13日 8時) (レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
苺(プロフ) - ひとみちゃん、悪女かと思いきやかなりいい子で😩❤️❤️❤️人間味ある感じ?!とても好きです。。!!! (2月13日 2時) (レス) @page41 id: 31ed2e1075 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃烏(プロフ) - 彗さん» ありがとうございます! (2月6日 11時) (レス) id: 8bc81fca4f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年1月21日 10時