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「……え、なんで泣いちゃうの?」
久しぶりの彼女の笑みに、俺は泣いていたみたいだった。でも、誰だってそうだと思う。愛している人が突然亡くなって、彼女が発する可愛い声も俺を惚れさせた罪な笑顔も抱き締めてくれる優しく暖かい手も、全部失ってしまったのだから。
「もしかして、そんなにお化け屋敷が嫌だった?」
「違う!………大丈夫。休憩しよう。」
次こそ彼女の手を握り、俺はゆっくりと歩きだした。彼女はちょっと驚いていたみたいだったけど、何も言わずに、俺のとなりを静かに歩いていた。時々力強く握られるけど、段々と力は弱まっていく。そのたびに彼女はまた力強く握り返す。
「すきだよ、わたる」
「うん、俺も」
今までに数えきれないほどその言葉を交わしていたけど、もう聞けなくなってしまったから。頭の中でずっと彼女のその言葉を思い出していたけれど、やっぱり、本当に言ってもらえるのと記憶じゃ全く違う。こっちの方が、ぜんぜんいい。
「で、なにかあった?」
近くに合ったベンチに座り、彼女は俺がなぜ泣いたのか理由を聞きだしていた。当回しに聞かれるより、ストレートに聞く彼女の性格はやはり変わっていない。これは本当にどういうことなのか、俺自身も理解できていない。
「今日のわたるはちょっと変だね。」と、彼女は失礼ながら俺を笑う。
「本当に何でもないよ。俺は大丈夫だから」
彼女は俺の言葉を聞くと、「そっか」とだけ言い、悲しそうな表情を浮かべた。
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作者名:天音 x他1人 | 作成日時:2022年11月26日 21時