【文スト】助手なんていらないんじゃ…２

＊59＊ ページ11

夕暮れもずいぶん早くなって、もう人もずいぶんまばらになった。早く買い物を済ませて帰ろう。私たちは足を早めた。

スーパーへと向かう道すがら、乱歩さんがこちらを見ずに言う。

乱｢A、こういうこと他の人ともするの｣

こういうこと？泊まる泊まらないの話だろうか。たしかに混乱して咄嗟に出てきた発言としては少しぶっ飛びすぎというか、はしたなかったかもしれない。乱歩さんは分かってるだろうけど、不安なのだろうか。



………不安？どうして？

貴｢しないですよ。男性とお泊まりなんて初めて…｣


あ。

そうか。男性と。………お泊まり。


これはもしや、あれか。予想以上にとんでもないことなのでは？
いや、問題があるわけじゃないんだけど。乱歩さんはそういうの、違うじゃん。ねえ？


乱｢……分かってないのに呼んじゃったの？無用心すぎない？｣

貴｢い、いえ、乱歩さんですから…｣


乱歩さんがこちらを向く気配がしたが、顔が見れない。


乱｢…………僕、そういうことしないように見える？｣



え？
声は出なかった。

乱歩さんの顔がすぐ目の前にある。一瞬、口付けされたのかと思ったが、あと数ミリのところで乱歩さんは止まっていた。後頭部に乱歩さんの手があって、後ろに顔を下げることができない。彼は私より背が高いから、力では勝てない。


思わずぐっと目を瞑ると、乱歩さんはぱっと私から離れた。


乱｢早く行こう！もう暮れるよ｣

乱歩さんは顔を見せずに言った。

私の心臓は鳴りっぱなしで、はい、と返事をするのがやっとだった。


…こんなんで、夜、どうなるんだ？

………いやいやいや、どうもこうもない。これは乱歩さんからの牽制だ。乱歩さんに限ってそんなこと…





………あるはずない、と言い切るには、私は期待しすぎている。

＊60＊→←＊58＊

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す