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とりあえず私も願い事を書いてしまおうか。皆はどういうものを書いているのかな、と手近な紙を捲ってみる。
『新しいメスが欲しい。』
線が細い、少し癖のある達筆。名前は書かれていないが、この字は与謝野さんだろう。隣の紙も捲る。
『元気な牛が一頭欲しいです。』
おっと、これは字を見るまでもなく賢治くんだ。元気な願い事で何よりである。さらにその下の紙を捲る。
『へいわとうきぎのめいぐるみ。』
これは鏡花ちゃんだろう。彼女は字を書くのが得意ではない。両親を幼くして亡くし、それからマフィアで殺しだけをして過ごしていたのだから当然だ。
今、彼女は社の皆の教えのもと字を練習している。習ったばかりの字で、一生懸命願い事を書いたに違いない。いかん、涙が。
ここまで見て、これはサンタクロースへ送る手紙代わりなのだと気が付いた。なるほど、彼らなりの精神的に幼い社員への配慮だろうか。とても良い。素晴らしいことだと思った。
それならば私も真摯に挑まねば。彼らの配慮には全力で応えねばなるまい。
ペンを握り、願い事を考えてみる。
…願い事を書くなんて久しぶりな気がする。そうだな、私の願いはー・・・
願い事を書いた紙を適当な場所に提げる。
よし、これで良いだろう。ついでに皆の願い事も覗いてしまおうか。
『綺麗なご麗人に出会えますように。』
『予定調和』
『平穏無事』
『ナオミと平和に過ごせますように。』
『兄様と平和に過ごせますように。』
『そしてもっと仲睦まじくなれますように。』
『あわよくばその先まで』
…建前と本音と願いがぐちゃぐちゃになっている人がいるけれど、皆らしい願いだ。思わず笑みが零れる。
そういえば、乱歩さんらしい願い事が見当たらない。
発案者が願いを書いていないというのは考えられないが…。
部屋に冷たい風が一陣吹いた。窓が空いているのに気付く。閉めようかと身体を窓に向けた時、はたと一枚の紙が目に止まった。
捲ってみると、白紙。というか、何も書かれていない。
白紙で提げられている紙はこのツリーにはこの紙以外無い。これを提げた人物には思い当たりがある。なるほど、彼らしい、と、そう思った。
私は窓際まで行って、窓枠に手を掛けた。すると、また一陣、冷たい風が吹いた。私は直ぐに窓を閉める。
ひっそりと、一枚の紙が翻った。
『相応しい助手になれますように。』
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麗(プロフ) - 5ページ 太宰さんに乱歩さんに 乱歩さんを ではないでしょうか? (2021年3月28日 22時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 3ページ 丈が眺めの 眺め ではないと思います、、 (2021年3月28日 22時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
飛花落葉(プロフ) - みずさん» 嬉しいです!ありがとうございます! (2018年8月13日 19時) (レス) id: 3b14457373 (このIDを非表示/違反報告)
みず(プロフ) - 乱歩さんに萌えました。あなたとあなたの作品が好きです心から。 (2018年8月9日 6時) (レス) id: 40c42479fe (このIDを非表示/違反報告)
飛花落葉(プロフ) - 通りすがりの変人さん» 嬉しいです!頑張ります!読んで頂きありがとうございます〜! (2018年5月27日 5時) (レス) id: a4f8881ef2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:飛花落葉 | 作成日時:2018年3月21日 15時