【文スト】助手なんていらないんじゃ…

＊34＊ ページ35

不味い。
非常に不味い。


冷や汗が顔の輪郭をなぞって落ちた。
頭が回らない。不味い。不味いのだ。


誰の料理が、ではない。
やらかしてしまったのだ。


転んだ。


親愛なる読者の皆様は「だからなんだ大仰に」と仰るだろう。
しかし私は探偵社員。転ぶだけならまだしも、あまつさえ擦りむくなどあってはならない。

あってはならないのだ。理由は簡単、解剖されてしまうから。


しかも場所が不味さに拍車を掛けた。
探偵社ビルの目の前。
近くに知り合いが誰もいなかったことが不幸中の幸いだと言えるだろう。が、お使いを任された下っ端社員の身の上で、解剖されることにビビり散らして無断で帰宅を決め込むなど許されることではない。

しかも乱歩さんを社に置いてきてしまっている。
少々言い方が悪いが今はそれどころではない。いち早く国木田さんに連絡を入れねば乱歩さんは騒ぎ出すわ与謝野さんにはバレるわで散々な結果になること請け合いだ。とりあえず連絡。社会人に報・連・相は基本なのだ。

とりあえず道の端に座り込み、国木田さんの番号を呼び出す。


国『…はい、国木田です』

貴「！国木田さん、お疲れ様ですっ」


太宰さんと違い電話に出てくれるタイプの人で良かった。とりあえず今の状況を説明し、指示を仰ぐ。

が、しかし。


国『擦りむいた程度で与謝野先生の異能は振るわれん。安心して戻って来い』


あっ、そうか。
与謝野さんは瀕死の重症しか治せないのをすっかり失念していた。うっかりうっかり、である。

貴「すみません、すぐ戻ります」

国『応』


プツッ、と電話が切れる。危ない危ない、頭の弱さを晒したのが国木田さんだけで良かった。

さあ直ぐに社に戻らねば。皆さんに迷惑を掛ける訳には行くまい。

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