第二十九話 ページ29
ずるずると引き摺る形で
家へと到着した
正直彼を森に帰そうと思ったが
彼を引き摺りながら山を登るのは無理だと判断した
かと言って、家に連れてくるのもどうかと思ったが
後ろから肩に顔を埋めて離れない彼をどうにかする力は私には持ち合わせていなかった
「毒島さん歩きにくいです」
「…」
いくらか声を掛けても
彼は応えてくれなかった
苦戦しながらもエレベーターに乗り
廊下を進んで部屋へとたどり着く
誰にもあってないのが幸い
重く感じる扉を開いて
中に入り鍵を閉める
ぐわんと視界が揺れた
視界いっぱいの彼と
玄関の天井
「すまない」
小さく聞こえた謝罪
謝らないで、何度そう言ったか
「貴女を傷付けてしまった、己が情けない」
頬を撫でる彼の手が
スっと離れていく
ぶわっと、感情が沸き起こる
だめだめ
だめだ
「小官は、」
それ以上は
どうか
「貴女を守る、そばに居る資格がない」
どろり、と
溶ける
脳が
思考が
密着していた身体が離れて
熱が逃げる
触れる空気が冷たい
私を起き上がらせて
軽く衣服の乱れを整えたあと
ドアノブに手をかける
「帰るんですか…？」
「…ああ」
ほんの少し
扉が開いて空気が入る
「A…」
彼の腕を掴む私は
溢れ出る感情と涙を
止められずにいた
あやす様に名前を呼んで頭を撫でてくれる
それでも止まらない
言葉も喉に引っ掛かったように出てこない
だめだ
まだ何も
何も解決していないのに
「まだ、居て」
我儘だ
彼の愛には応えれずに居るのに
彼が離れようとしたら
今度は引き離すまいと躍起になる
「人間ってクソ雑魚なんです、誰しもが怪我するんです、怪我しないと痛いのってわからないんです」
何を言ってるか分からない
自分でもそう思う
それでも、引き止める何かを言わなきゃ
「私の隣にいる事に、資格なんて要りません」
「私の許可はいるけど」
段々呼吸が辛くなる
縋るように、彼の腕を掴む手に力が入る
ぽたぽたと床と服を濡らす
「話すから、私の事、だから」
「ここにいて」
大きな手が
腰と後頭部に回る
冷たい空気が抜けて
体温が伝わる
あなたの腕の中が
こんなにも心地いいなんて、知らなかった
空の色
視線が交じって
鼻先が触れ合う
自然と口が開いていたから
互いを求め合うように
何度も、何度も
キスをした
すとん
音がする
落ちる音
「愛している」
聞き慣れた言葉が
無窮に落とす
もう
出れない
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 370人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒプノシスマイク」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
彪雅(プロフ) - Locoさん» 一日に二週も！貴重なお時間を使って頂きありがとうございます！もうこの作品以上の良い物作れる気がしません(^^;楽しんで頂けたようで嬉しく思いますありがとうございます！ (2021年7月2日 7時) (
レス) id: 1f8ddf155c (このIDを非表示/違反報告)
Loco - 一日で二周しました。なんかもう幸せすぎます！ありがとうございました！ (2021年6月30日 18時) (レス) id: 2cf4de4ba9 (このIDを非表示/違反報告)
彪雅(プロフ) - 完結してもうすぐ一年やのに未だに通知来るの怖いみんなヒプマイ大好きかよありがとうございますありがとうございます (2021年5月31日 23時) (レス) id: 1f8ddf155c (このIDを非表示/違反報告)
彪雅(プロフ) - 2次元依存症さん» 返信遅くなって申しわけないです！一気読みありがとうございます頑張ります！ (2020年10月5日 2時) (レス) id: 7fa9381753 (このIDを非表示/違反報告)
2次元依存症 - すぐに一気読みしてしまいました！本当に面白かったです(^^)これからも頑張って下さい*\(^o^)/* (2020年7月14日 21時) (レス) id: 2f3de9b29a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：彪雅 | 作成日時：2020年5月20日 15時
