【刀剣乱舞】驚きの毎日を、弐【男主】

驚きの笑み ページ27

対する三日月は、

不思議そうに目を瞬かせる。

ぱちぱちと大きな瞳を瞬かせ、

俺の顔をじぃっとのぞきこむ。

「…お前は、誰だ?」

問われた言葉は、記憶喪失者のそれだ。

兼さんと似たような壊れ方だと

思っていたが、次に発せられた言葉で

違和感が生じた。

「お前、名はなんという?

俺はついさっき生み出されたばかりでなぁ、

名は…はて、なんといったかな?」

はっはっはっ、とあっけらかんと

笑う三日月。

その笑みは無邪気そのもので、

でも俺の知っているほわほわした笑みとは

まるで違う。

ただ無邪気なだけの、純真無垢な、

天真爛漫な笑みだ。

生まれたばかりの子どもが浮かべる

笑顔と、よく似ていた。

…そう、

『生まれたばかりの』子どもの笑み。

「あの天下五剣、あんな無邪気な

笑みを浮かべる刀だったか?」

「ダメ刀に聞くなよ。

…なんか、幼子みたいだとは思うけど」

長谷部と不動も違和感を感じたのか、

喧嘩をやめてひそひそと口を寄せあい

話している。

三日月に対する違和感は、どんどんと

膨らんで、大きくなっていく。

「俺はまだ外に出たことがないんだが、

世の外は、どうなっておる?

美しい月の姫がおるのか?」

「…かぐや姫のことか?」

「あれは物語上の話だろ?

…え、本当にいるのか?」

「いるわけないだろう、バカ刀」

「なっ、俺はバカじゃない!!

信長公のお気に入りの刀だったんだぞ!!」

「おいそこ、喧嘩している場合じゃない」

子どものようにキラキラと瞳を

輝かせる三日月をよそに、

また喧嘩を始めた二振りを黙らせる。

とてつもなく嫌な予感がする。

ただ記憶を失っただけではない、

とても大切なことを忘れているような。

「なぁ、きみ。

今の時代は、いつか分かるか?」

俺の問いに、三日月は当然だと

言うようににこりと笑う。

「知っておるよ。今は、そう…









…平安時代であろう?」

ひゅ、と息をのんだ音が聞こえた。

それは長谷部だったかもしれないし、

不動だったかもしれない。

「…きみは、誰だ?」

恐る恐る、尋ねる。

三日月は、自分は生まれたばかりだと

言っていた。

だが、そんなはずはない。

三日月は俺よりうんと年上だ。

「うん、俺か?

…はて、名前はなんだったかなぁ?」

困ったように笑う三日月に、確信した。

彼は、彼の記憶は。

…平安時代以降の、下手すれば

自分が刀として存在する前の記憶を、

全てを失っている。

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