【刀剣乱舞】驚きの毎日を、弐【男主】

驚きの機嫌の悪さ ページ14

俺に傷があったことなど、

すでに記憶から抜け落ちていたようだった。

こういうところもおっちょこちょい、と

言うのだろうか。

今も会話を中断したかと思えば、

また話を始めるし。

退屈しないから別にいいんだが、

鶴丸は四六時中こんな感じで

光忠についていたんだろうか…。

だとしたら、鶴丸はかなりの大物だな。

俺は少し、入ってくる情報量が

莫大過ぎて疲れた。

それでもうんうんと相槌を打っていると、

カタン、と椅子を引いた音がした。

「あっ、三日月さん。気分はどう?」

光忠が喋るのをやめて、そんなことを

聞いた。

椅子を引いたのは、三日月らしい。

心配そうに聞いている光忠に、

三日月は顔を下に向けたまま反応を

示さない。

机に手を置いて立ち上がっている

体制のままだ。

「み…兄様、もう大丈夫なのか?」

呼びにくい兄様呼びをすると、

やっと三日月が顔をあげた。

その表情はまだ少し疲労が残っていたが、

それよりも気になったのは口元だ。

不満げに歪められた、その口元。

への字に折れ曲がっていて、

気分が悪いのに加えて

機嫌も悪くなったようだ。

何か三日月の機嫌が

悪くなることを、したかねぇ?

心当たりがなく首をかしげていると、

ふらふらと俺の元まで歩いてきた

三日月が、無造作に右腕を掴む。

「…鶴、部屋に帰るぞ」

「…あ、ああ。…じゃあな、光忠!」

その声がまた恐ろしく低くて

機嫌の悪そうなもんだから、

つい反応が遅れた。

ぽけーっ、としている光忠に

別れの挨拶をすると、手を振って

見送られた。

その間、俺はずるずると三日月に

腕を引っ張られたままだ。

だいぶ長い時間話していたから、

決行時間を過ぎていないか心配だ。

兼さんの部屋に行って、屋根裏にいる

前田と平野を下におろさないと。

それから、一期一振を探して。

「三日月、兼さんの部屋に行こう。

前田と平野を降ろさないと」

自室に戻る気満々の三日月の腕を

強引に引っ張って、方向転換させる。

腕だけ持っても心許ないし、

何より手からすり抜けそうだから

しっかりと手を握る。

所詮恋人繋ぎというやつだが、

この握り方だったら振りほどくのは

難しいことに俺は気付いた。

ぐいぐいと引っ張って来た道を戻るが、

三日月も抵抗を示す。

自分の足でその場から動こうとしないのだ。

どんだけ機嫌悪いんだ三日月、と

睨むと、不満げに睨み返された。

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