高嶺の花子と大怪盗２【黒羽快斗】 (ページ35)

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85, 予告直前です②-1 ページ35

快斗side

時刻は夜の23時。

群衆に沿って少し歩くと、ミライラ美術館が見える。

上空にいる15台のヘリがうるさいし眩しい。

予告時間より、1時間前であるにも関わらず、美術館前の門ギリギリまで人で埋め尽くされている。

こりゃ移動するのも一苦労だ、と苦笑いがもれる。

「すみませーん、ちょっと失礼ー？」と、群衆をかき分けて、なんとか美術館前に出る。

さぁて、ひと騒ぎ起こしますか。

ついニヤッと笑ってしまう。

1度帽子を深く被り直し、声が遠くまで届くようにスゥっと大きく息を吸う。

「キャー、痴漢よ！あなたね！」

という高い女性の声。

「は？ちげーし、ふざけんな、離せよ！」

という男性の声。

「私見てましたけど、彼じゃありませんよ？」

というやや低めな女性の声。

「じゃあ誰がしたって言うのよ！おまわりさーん！」

という最初に叫んだ女性の声。

俺の隣にいた女性二人が、えっ……と信じられないという顔でこちらを見る。

「今のって……」

女性が口を開きかけたところで、シーっと口に人差し指を立ててみせると、女性達は頬を赤らめてうんうんと頷いた。

そう、今のは全部、声帯模写。全て俺の自作自演だ。

もちろん痴漢騒ぎなど起きていない。

仮にこの女性達が、俺が怪盗キッドだと気づいても、帽子を深く被っているので顔は見られていないからセーフだろう。

まぁそれ以前にこの女性達が俺の正体をバラすことは無いと思うが。

おそらくキッドファンだし。カバンに非売品のキッドのぬいぐるみついてるし。

クオリティ高ぇなおい。自作か？

「通してくださーい、警察です。通してくださーい」

少し遠くから声がする。

ほーら来た。

持ち場を離れた警官が1人。騒ぎの声がした方に向かって来ている。

〝おまわりさーん〟

と呼ばれれば、キッド捕縛のため余るほど来ている警察は、来ない訳にはいかないだろう。

未だに頬を赤らめたまま、俺を凝視している女性達にヒラヒラと手を振ってみせ、もう一度帽子を深く被り直し、向かってくる警官の方へと移動する。

人と人とがぎゅうぎゅう詰めで、動くのも一苦労だ。