82. 15日目・かつての隊士 ページ35
それからまた数日が経過。
あれからというもの、初見はAが頬を叩いた事、そして殺そうとしたことを言いふらしていた。
その噂のせいで、女を叩くとは男として失礼だとか、よくわからない噂が立ち、陰口を言われるが気にすることもない。だが、それと同時にAの真似をしている初見も、柱を侮辱する人と馬鹿にされていた。
噂など初めから聞く耳を持たないAは、井草を連れてある場所を訪れていた。
「…Aさん、ここは…?」
そこは墓地だ。だけど、Aに案内されたところにあったのは、日輪刀を墓標の代わりにしたお墓。
『…君に、少し昔話をしようか』
持ってきたお花を供え、手を合わせ終えると、井草に目を向けることなくじっと日輪刀を見つめていた。
『以前、俺が君以外に1人だけ、隊士を受け持ったことがあるという話をしたよね』
「…はい」
『この墓は、その人のものだ』
それは4年前のこと。
柱に昇格したAは、お館様より1人の隊士を受け持つことになった。
『その人は面倒見がよく、当時12歳だった俺に対しても、子ども扱いすることなく、柱として扱ってくれた。朝の鍛錬は怠らず、医術の知識も豊富だった』
井草は静かに話に耳を傾けている。
『…だけど、刀を握るのだけはどうも苦手だったらしい。何故、鬼殺隊に入ったんだと聞けば、親友を鬼に殺されたからだと言っていた。親友は自分を庇って鬼に殺されたと言ってな、その時に鬼が刀のようなものを持っていたから、それが今でも恐ろしくなる…そうやって、ずっと逃げていた』
Aは、地面に刺さる日輪刀の鍔の部分に触れる。
『俺の元で鍛錬を続けて半年経った頃には、自力で鬼を倒せるまでに成長していた。そんなある時―…、いつものように任務を終えて、本部に戻る途中―…』
鬼の襲撃に遭い、Aは鬼に拘束され逃げることができなくなった。
『…俺はその人に、撤退命令を出した。いくら鍛錬を積んできたからといって、一般隊士が元・下弦を相手に1人でやり合うのは、死んだも同然だ。だけど、その人は―…、初めて命令に背いた』
命令に背き、Aを助け出すために、必死で刀を振るっていた。自身がどんなに傷だらけになろうとも。
『俺を救い出した時には、その人は既に虫の息だった』
Aはその時の光景を思い浮かべる。
58人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Haru yama | 作成日時:2021年5月26日 0時