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月は沈む*煉獄杏寿郎 ページ9

終わったことにしなければならない。ツンとする線香の香りをかぎながら、そう思った。



煉獄杏寿郎は、かつての婚約者だった。煉獄家はこの辺りでは有名な名家で、わたしの家は古くから呉服屋を営み歴代炎柱の羽織を作っている。両家の長男と長女の間で婚約の話が持ち上がったのは自然なことだったように思う。私より二つ年上の杏寿郎は、面倒見がよく幼いころからよくしてくれていたし、杏寿郎が稽古をしているときは幼い千寿郎の面倒を見るのが好きだった。婚約の話が持ち上がる前、互いにきっとそうなるだろうと思っていたころはよく二人で甘味処に行っては飽きるまで話をした。鬼殺のことをよく知らず恐ろしいものが苦手な私に気遣ってか、彼はあまり鬼の話や怖い話をしないでいてくれた。昼から夕が暮れるまで、他愛もない話をする時間が私は好きだった。


いよいよ両親から結婚の話をされた時も、ああ、あの時間がこれからずっと彼とともに築けるのかと思うと、胸の内から桜が咲くのではと錯覚するような温かいものがこみ上げてきたのを覚えている。同時に気恥ずかしさと、鬼殺の隊士たる彼のことをちゃんと知りたいと思った。

私は彼と、夫婦になりたいと思った。

婚約者として初めて会ったとき、意識してぎこちない私に
「婚約者となったからといって、今までと変わらない。俺は、いつも小鳥のようにしゃべる君のほうが好きだ!」
と言って頭をポンポンとたたくから、顔が燃えるように熱くなったのを覚えている。


彼の仕事が続き、結婚の準備は遅れに遅れた。とっくに覚悟も決まっているつもりだったある日の夜中、家の戸を叩く音に目を覚まし顔をのぞかせると、そこにはぼろぼろと形容するにふさわしい様子の杏寿郎が立っていた。大きな満月を背負い表情の善く見えない彼が、「夜中の来客に、急に戸を開けるのは不用心だぞ。」と力なく言った。

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あおりんご(プロフ) - 吹雪さん» ありがとうございます!挑戦してみます。とてもゆっくりの更新ですが、読んで頂けて嬉しいです。 (2020年11月6日 22時) (レス) id: 8502751b8c (このIDを非表示/違反報告)
吹雪 - あの、悲鳴嶼さんは書いてもらえませんか。 (2020年11月2日 21時) (レス) id: a5355ab53e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あおりんご | 作成日時:2019年8月15日 1時

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