ハッピーエンド/宇隨天元 ページ16
鬼殺隊に入って四年が経ち、私は死の淵をさ迷っていた。ただ鬼を狩るべく奔走し、多くの仲間の思いを背負い、それでも走り続けなければ、生きて鬼舞辻を殺せるその日まで立ち止まることを自分に禁じていた。
それなのに。
今は床から起き上がることも一苦労だ。人のみでありながら鬼と戦い続ける代償でもなく、名誉の負傷でもなく、ただの流行病で。
どれだけ呼吸を駆使しようと、そもそも肺が思うように動いてくれない。今や刀を握りどころか、師匠様の背をおうことすらできないだろう。
情けなくて涙も出ない。日がな1日床に伏せっては苦い薬と味の薄い粥を飲むばかりの日々。嫌でも物思いにふけってしまう。
思えば、陳腐な演劇のような人生だった。父は生まれて直ぐに失踪し、母は愛情を持って育ててくれたが12の時に鬼に襲われあっけなく死んだ。その後は孤児として侮蔑と暴力、孤独の日々だった。そんな時たまたま宇髄天元と名乗る美丈夫に救われ、母の復讐の為にと刀を取り、音柱の継子になるまでに剣術にあけくれ、継子になってからも弟子として散々扱かれ、文字通り血反吐を吐く程の日々を送った。その結末はなんともあっけない、鬼殺においてまさに技の核といえる肺を患って死ぬのだから。
宇髄様は、お忙しい身でありながら暇を見つけては顔を見に来てくださる。3人のお嫁様方も献身的に看病をしてくださるが、私がもう長くは無いことを、きっと見抜いているのだろう。宇隨様は特に、忍びの家系で地獄のような現実を見続けてきた方だ。死の淵に立つ人の顔も見なれている。私の前に来て優しい言葉をかけてくださるが、いつか見たような、ふと考えこむような、何かを探すような表情をされている。宇隨様の心労になっている事実だけで、私は身も心も焼き切れそうだ。
私の中の美しい記憶には、幼い頃の母の記憶と、宇隨様とすごした継子としての日々しかない。そのほかは全て、孤独と暴力。なんと惨めな人生だ。
それでも、ああ、いっとう美しい記憶。宇隨様が私の身の上話を聞きたいと、夜半の縁側で晩酌のお付き合いをした記憶。それだけで少しだけ心は安らかになる。
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あおりんご(プロフ) - 吹雪さん» ありがとうございます!挑戦してみます。とてもゆっくりの更新ですが、読んで頂けて嬉しいです。 (2020年11月6日 22時) (レス) id: 8502751b8c (このIDを非表示/違反報告)
吹雪 - あの、悲鳴嶼さんは書いてもらえませんか。 (2020年11月2日 21時) (レス) id: a5355ab53e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あおりんご | 作成日時:2019年8月15日 1時