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「兄上は、きっとこのことをあなたに話すつもりはなかったと思います。でも、私はどうしても知ってほしかった。兄上は本当にあなたのことを大切に思っていたって、あなた知ってほしかった。」
千寿郎の大きな目から涙がぽろぽろとこぼれる。耳の奥でごぉーと血液の流れる音が聞こえ、心臓が思い出さないようにしていた想いを溢れさせるかのように脈打つ。何かを言いたくて口を開けるのに、乾いて言葉にならない。何とか深呼吸をしようと大きく息を吸いこみ吐き出そうとすると、胸が詰まってどうしようもないほど熱い雫があふれ出した。戸惑い何か言い訳を考えるが、何も言葉にすることはできなかった。言葉にできないほどの熱い、抑え込み続けた彼への想いと悲しみの炎は私の喉を焼いてしまったらしい。体が引きちぎれてしまうのではないかと思うほどに、心臓は脈打ち体中を血液が駆け巡る。
千寿郎はそんな私に手ぬぐいを渡すと、「あなたはとっくにそんなもの超えていたことも、きっと兄上は、わかっていたのですね。」とつぶやくと一緒に泣いた。手ぬぐいには煉獄邸の線香と畳の香りがしみ込んでおり、まだ、ここで待っていれば汗だくの彼が稽古から戻ってくるのではないかという気さえした。
やっと落ち着いて、千寿郎と別れ帰路についたころ、すっかりあたりは暗くなっていた。外気の冷たさは余計に一人を実感させるので、走って帰る。息が切れても汗が目に入っても走って走って走り続けた。喉がひゅうひゅうとなるが、そんな苦しさなんて些末なことだ。もうどこを探しても、彼がいないなんてことに比べれば。脚がもつれて転ぶ。くらくらとして立ち上がれず蹲る。
「うわああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
細い裏路地で周囲に誰もいないことをいいことに、声をあげて泣いた。自分の赤子のような鳴き声がどこか遠くに聞こえて、のどの痛みも切れて血が出てるまで泣き果ててもまだ涙は止まらない気がした。
「なんっにもしらなかっだ!!でも!それでも、、一緒にいたかっだんだよう、、、」
いつかのように抱きしめてほしかった。いつかのようにまた笑いかけてほしかった。
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あおりんご(プロフ) - 吹雪さん» ありがとうございます!挑戦してみます。とてもゆっくりの更新ですが、読んで頂けて嬉しいです。 (2020年11月6日 22時) (レス) id: 8502751b8c (このIDを非表示/違反報告)
吹雪 - あの、悲鳴嶼さんは書いてもらえませんか。 (2020年11月2日 21時) (レス) id: a5355ab53e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あおりんご | 作成日時:2019年8月15日 1時