血の呪い ページ5
隊士慰霊碑 御処
殉職した隊士たちの魂が、安らかに眠る場所。
街の喧騒から離れ、鳥のさえずりだけが微かに聞こえてくる。
『兄さん、来たよ。』
わたしは”粂野家”と彫られた墓石の前に花束を置いた。
桶と柄杓を持って水を汲みに行く。
歩きながら周囲を見渡す。
去年来た時よりも墓石が増えている気がする。
皆、わたしの知らない誰かの大切な人だったのかな。
きっと己の傷なんか顧みず勇敢に戦って、そして−…。
水をそそぎ、花を花器に入れる。
『今年はわたしの方が先だったね。』
花器を設置し、墓石を拭き上げながら話しかける。
わたしが来る前にいつも誰か来て、花を活けてくれているのだ。
『…誰なんだろう。』
兄の肉親はわたししかいないのに。
あの日、どうやってたどり着いたのか記憶がないが、気づいたら産屋敷家で介抱されていた。
後から輝哉様に聞いた話によると。
わたしの身を案じた匡近兄さんが、”自分に何か不幸があったらどうか妹を”と、輝哉様に身受けをお願いしてくれていたんだそうだ。
いつもいつも自分のことよりわたしのこと。
最後まで、優しい人だった。
わたしは墓石に手を当てて目を閉じる。
『…時の呼吸、壱の型 ”追想”。』
”A、俺、鬼殺隊に入ることにした。父さんや母さんの仇を取る。もうこれ以上、俺たちみたいに鬼のせいで悲しむ人を見たくない。”
”兄さんが行くならわたしも行く!”
”いや、お前は残れ。”
”やだよ!わたしだって兄さんを守りたい!”
”A、よく聞け。お前は…お前の血は特別なんだよ。人よりも危険にさらされやすい。”
”特別…?”
”そうだ。神様に選ばれた特別な存在なんだよ。”
”兄さんはちがうの?”
”そうだ。……今はまだ知らない方がいい。いつか何が特別なのかわかっても、自分のことを決して責めたりするんじゃないぞ。兄さんと約束してくれ。”
『…無理だよ。』
閉じた瞳から、涙があふれてくる。
『兄さん…ごめんなさい……ごめんッ…なさぃ…。』
わたしが”稀血”だったから。
わたしの血が鬼を引き寄せた。
父さんも母さんも、わたしのせいで死んだ。
わたしを守ろうとして、兄さんも死んだ。
特別なんかじゃなくて良かった。
大切な人たちと、ずっと一緒に生きていたかった。
残されてこんなに辛い思いをしても、それでも生きなきゃいけないの?
『匡近兄さん、会いたいよ…ッ。』
墓石に縋り、懐かしい声だけしか聴けない今を呪った。
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まるこ(プロフ) - 蝶々。さん» ありがとうございます。 嬉しいです! もう少しだけ続きますので、宜しければ見届けてやってください。 (2020年6月13日 16時) (レス) id: d44de4af2e (このIDを非表示/違反報告)
蝶々。 - .とても素敵な作品でした...。長男’s…尊。次回作あったら見に行きますぅぅ!(泣) (2020年6月13日 16時) (レス) id: 99cfbd2b16 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まるこ | 作成日時:2020年5月25日 23時