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満たされた心 ページ35

朝陽が障子越しにやわらかく入ってくる。

『んん…。』
布団の中で寝返りを打とうとすると、自分の身体の上にある腕に引き寄せられた。
『…実弥さん?』
視線を上げて小声で呼ぶが、返事はない。
代わりに規則正しい寝息が聞こえてきた。無意識だったらしい。


隣で眠る彼を起こさぬよう、慎重にその腕から抜け出した。
上半身に何もまとわず眠る、愛しい人。
床を見れば陽光の中、ほどけて散らばる帯や着物が目に入る。
互いに愛し合った夜を思い出し、顔に熱が集まるのを感じた。


簡単に身支度を整えて縁側に出た。
街の喧騒がかすかに聞こえてくる。

見上げればいつもと変わらない、空。

頬を撫でていく、風。

気持ちの良い、朝。



超えてしまったら、どうなるのかずっと不安だった。
でも覚悟を決めて受け入れてみれば。
気持ちは穏やかで、不思議なくらい満たされている自分に驚く。


わたし自身の血も、実弥さんが柱であることも、彼の任務に常に危険が伴うことも。
外側の事実は何も変わっていないのに。


心が満たされていると、こんなにも感じる世界が違うなんて。




…そろそろ彼が起きるころだろう。
起きる前に戻ろうと立ち上がった。


バタバタッという足音の後に、後ろの戸が勢い良く開いた。

「A!!」


驚いて振り向くと。
とりあえず着ただけ、という乱れた姿の実弥さんがいた。
そのままの勢いで腕を引かれる。


「勝手に抜け出すなァ。…いなくなったかと思うじゃねェか。」
押し付けられた胸から、心臓の音が伝わってくる。

『ごめんなさい。』
わたしもその広い背中に手を回した。



『…幸せだなぁって思ってたんです。』
『ずっと怖かったけど、越えてみたら苦しいくらい幸せでした。』

実弥さんが教えてくれたんです、とつぶやくと。

視界が反転し、至近距離に実弥さんの顔。
横抱きにされているのだと気づくのに一瞬、時間がかかった。



『えっ?』
「……煽ったお前が悪ぃ。」
ニヤッと笑った実弥さんに、そのまま連れ戻されたのだった。





…………


「…匡近に報告しねぇとなァ。」
わたしの髪を撫でながら、実弥さんが言った。
横になったまま、顔だけ彼の方に向ける。

『…そうですね。』

「起き上がれねぇのか?」

『…誰のせいだと思ってるんですか。』

「受け入れろォ。どれだけ待たされたと思ってやがる。」
痛む腰をさすりながら軽く睨むと、そんなわたしを見た実弥さんは楽しそうに笑った。

誓い→←あなたと共に



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設定タグ:鬼滅の刃 , 不死川実弥 ,   
作品ジャンル:アニメ
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まるこ(プロフ) - 蝶々。さん» ありがとうございます。 嬉しいです! もう少しだけ続きますので、宜しければ見届けてやってください。 (2020年6月13日 16時) (レス) id: d44de4af2e (このIDを非表示/違反報告)
蝶々。 - .とても素敵な作品でした...。長男’s…尊。次回作あったら見に行きますぅぅ!(泣) (2020年6月13日 16時) (レス) id: 99cfbd2b16 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:まるこ | 作成日時:2020年5月25日 23時

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