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兄の遺言 ページ31

『ッ…はぁ…はぁ……。』

どのくらい走ったのか。
鬱蒼とした森の中をがむしゃらに走ったせいで、方角もよくわからない。
わたしは今、どこにいるんだろう。

月明かりを頼りに進むと、少し開けた場所に出た。

ぼんやりと、何か建物の残骸が見える。

『あ……。』

それは、かつて幸せな時間を過ごした生家だった。





「…見つけたぜぇ…。」
その時ガサリ、と密かに草むらで動く影があった。




……………………


家の残骸にゆっくり近づいて、黒い塊に手を触れた。


『…時の呼吸 壱ノ型 "追想"』

懐かしい場面がぼうっと浮かび上がる。



"A、沢山食べなさい。"
"母さんの料理は世界一だよ、なぁA"



"やつら火を放った!A、逃げなさい!"
"A、お兄ちゃんと助け合って生きるのよ"



『父さん…母さん…』



"俺、鬼殺隊に入る。俺たちみたいに鬼のせいで悲しむ人を、もう見たくない。"
"お兄ちゃんが行くならわたしも行く!"
"Aは女の子なんだから。兄ちゃんが守ってやる。"


『ッ……兄さん…』


懐かしい声、楽しかった記憶が鮮やかに蘇る。
思わずそっと手を伸ばした。

目の前の思い出は、霞となって指の間をすり抜けていく。


優しい人はみんな居なくなってしまった。
わたしに、記憶だけを残して。



それ以上思い出すのは辛くて、わたしはここから離れようと向きを変えた。

その時、懐から何かがカサリと落ちた。

『…手紙。』

それはいつも懐に忍ばせていた、兄からの遺言だった。


ずっと読めずにいた、大切な手紙。
わたしはゆっくりと、封を解いた。



"我が妹 A

何か死を予感するものがあった訳ではない。
しかし万一の際に後悔が無いよう、こうして手紙にしたためておく。
鬼殺隊に入隊するというのは、そういうことだ。

A、己の血を憎むな。
自分の運命を恐れるな。

お前は幸せになるために生まれてきたんだ。
今まで人より辛い思いをした分、愛し愛される誰かにきっと巡り合う。

俺1人の生命など、時代の流れの前には無に等しい。
それでも大切な者の未来のために、俺は闘う。

A、自分を大切にしてくれ。大切にするというのは…自分を許すということだ。

お前の幸せを願う 兄より"







ぽたぽたっと水滴が落ち、目の前の文字が滲んだ。

『ッ……兄さぁぁんッ!!』

涙が止まらなかった。

もう逃げない→←焦燥



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設定タグ:鬼滅の刃 , 不死川実弥 ,   
作品ジャンル:アニメ
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まるこ(プロフ) - 蝶々。さん» ありがとうございます。 嬉しいです! もう少しだけ続きますので、宜しければ見届けてやってください。 (2020年6月13日 16時) (レス) id: d44de4af2e (このIDを非表示/違反報告)
蝶々。 - .とても素敵な作品でした...。長男’s…尊。次回作あったら見に行きますぅぅ!(泣) (2020年6月13日 16時) (レス) id: 99cfbd2b16 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:まるこ | 作成日時:2020年5月25日 23時

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