襲来 ページ29
夜も更けた亥の刻。
わたしは日輪刀を携えた実弥さんを見送りに出た。
「A、戸締りしろよ。」
『はい、心得ております。』
返事をするといつものようにわたしの頭をポンポン、と優しく叩く彼。
普段はそれで終わりだが、今日はしばらくそのまま手を乗せられたままだ。
『？』
どうしたんだろう、と視線で問うと。
「…最近やたらと雑魚鬼が多い。A、外にでるんじゃねェぞ。」
そう言って、頬の傷跡を指でなぞられた。
『承知しました。心配しすぎですよ。』
微笑むと、実弥さんはやっと安心したような表情になり、「明日の朝には戻る」と闇に消えた。
見送ってから、部屋に戻ろうと戸に手をかけた。
『…そろそろ1度、御挨拶に行かないとなー…』
産屋敷家を出てからずいぶん経つ。
大まかには実弥さんが伝えてくれてはいるが、やはりお世話になった身。
このままでは心苦しい。
『ッ！！』
考え事をしていたせいか、木戸のささくれに指をひっかけてしまった。
想っていたよりも切り方が深かったようで、傷から血が溢れ出てきた。
『あッ……。』
出血してはダメだ。
咄嗟に着物の裾をぴゅっ！と切り裂き、素早く指先に巻いた。
じんわり滲んできているが、大丈夫そうだ。
「ひゃははははァァァ！！！！ 女の稀血だァァァァ！！！！」
ガツッ！！！！！
『！！！？』
ホッとした瞬間、強い力で飛ばされた。
木戸に強く叩きつけられ、脇腹は強い痛みに貫かれた。
「てめぇ！！！ おれが見つけた稀血だ！ 引っ込んでろ！！！」
「うるせぇ！！ おれが先に見つけたんだ！！」
外見からして人外の姿をした2体が、目の前で醜く争っている。
『くッ…！！』
鬼だ。
…迂闊だった。
わたしはもう刀を握れない。
だからケガをしないように気を付けていたのに。
「お嬢様、どうされました−…ひぃ！！」
大きな音を聞いた使用人が顔をのぞかせ、悲鳴を上げた。
鬼たちがその声に振り向く。同時に1体がそのまま飛びかかった。
『だめ！！！』
わたしは咄嗟に前に立ちふさがる。
左頬に裂かれるような鋭い痛みを感じ、血がほとばしった。
「稀血だァァァァ！！！！！ 極上だぜぇ！！！」
鬼たちは狂ったように地面に落ちた血を舐めている。
その様子に、背筋が凍るような感覚を覚えた。
あぁ、だめだここにいては。
またわたしのせいで、人が傷つく。誰かが死ぬ。
それだけはもう嫌だ。
わたしは闇に向かって走り出した。
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まるこ(プロフ) - 蝶々。さん» ありがとうございます。 嬉しいです！ もう少しだけ続きますので、宜しければ見届けてやってください。 (2020年6月13日 16時) (
レス) id: d44de4af2e (このIDを非表示/違反報告)
蝶々。 - .とても素敵な作品でした...。長男’ｓ…尊。次回作あったら見に行きますぅぅ！（泣） (2020年6月13日 16時) (レス) id: 99cfbd2b16 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：まるこ | 作成日時：2020年5月25日 23時
