越えられない一線 ページ28
陽はまだ高く、明るい陽光がふんわりと窓から射す午後。
『んー……』
わたしはそっと寝床を抜け出して、両腕を高く上げて伸びた。
空を見上げ、太陽の位置を確認する。
『実弥さん、そろそろ時間です。』
わたしは寝床に戻り、隣に眠る彼を緩く揺り動かす。
「…ん。」
布団に頭まで潜って、白い髪がちょこっとだけ覗いている。
そっと掛布団をめくると、想像できないくらい緩んだ表情の彼が目を閉じて、すぅすぅと寝息を立てている。鋭い瞳が閉じられているせいか、普段よりも幼く見える。
わずかに開かれた薄い唇。
呼吸に合わせて緩やかに上下する、逞しい肩。
わたしの方に伸ばされた傷だらけの手。
……愛おしい。
わたしは手を伸ばし、その短い髪にゆるく指を通す。
見た目よりずっとやわらかい。
温かい気持ちがこみ上げると同時に、胸が締め付けられるような、言いようのない気持ちに襲われる。
想いが通じ合った日からずっと、わたし達は一緒にいる。
好物だというおはぎを作ったり、夜は任務でいない実弥さんのため、一緒に午睡を取る。
でも、わたし達には深い関係はない。
本当にただ、隣で眠るだけ。
”A、お前が完全に俺に気持ちを許すまで、待つ”
自分でも酷なことをしていると、思う。
実弥さんのことを疑っているわけではない。
嘘偽りなく、彼が好きだ。
でも、柱である彼は危険に晒される任務も圧倒的に多い。
明日、生きて会えるという保証はどこにもない。
この一線を越えてしまったら、本当に取り返しがつかなくなるような気がして。
心の底まで見せた相手がいなくなってしまった時、今度こそ自分が壊れてしまうんじゃないか。
時間を重ねても、その思いがどうしても消えなかった。
わたしは結局、自分のことがかわいいだけの……臆病者だ。
『……ごめんなさい。』
彼の髪をすきながら、寝顔に向かってつぶやいた。
愛しているのに、踏み出せない。
大切に想えば想うほど、失うのが怖い。
「……謝るなァ。」
閉じられていた鋭い瞳が細く開かれ、髪をすいていた指を絡めとられる。
そのまま手を引かれ、素直にその広い胸に自分の身体を預けた。
体温の高い彼の腕に包まれる。
『…実弥さん、わたし−…』
言いかけると、抱きしめられている腕に力が込められる。
「…安心しろ。約束は違えねェよ。」
視線を上げれば、わたしだけを映す優しい瞳。
わたしは説明のできないこの気持ちを込めるように、強く抱きついた。
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まるこ(プロフ) - 蝶々。さん» ありがとうございます。 嬉しいです！ もう少しだけ続きますので、宜しければ見届けてやってください。 (2020年6月13日 16時) (
レス) id: d44de4af2e (このIDを非表示/違反報告)
蝶々。 - .とても素敵な作品でした...。長男’ｓ…尊。次回作あったら見に行きますぅぅ！（泣） (2020年6月13日 16時) (レス) id: 99cfbd2b16 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：まるこ | 作成日時：2020年5月25日 23時
