同情なんかじゃ、ない ページ22
不死川邸で養生することになって数週間が過ぎた。
不死川さんは、夜は任務でいないけれど、昼間は時間を見つけて顔を出してくれる。
「身体、どうだァ?」などの短い言葉だが、気遣ってくれているのが伝わってくる。
多忙な主に代わって使用人や女中が配膳から清拭まで手厚くもてなしてくれる。
少しずつ回復してきたから、と手伝おうとすると”旦那様に止められておりますから”と決まって断られてしまうのだ。
肩の傷は表面上、ほとんど治ってきている。
ただ、右肩は健が断裂してしまったらしい。
剣はもう握れないんだそうだ。
「ここまで指が動かせるようになっただけでもすごいことですよ。あとは少しずつ練習を続けていきましょう。」
わたしを診察し終えた胡蝶さんが声をかけてくれる。
『ありがとうございます、胡蝶さん。』
右手をゆっくり閉じたり開いたりしてみる。少し引きつるような感覚はあるが、動作は問題ない。
『あの、もう日常生活に関することってやってみてもいいですか? その…掃除とか炊事とか。』
輝哉様のお屋敷を出てからずいぶん経つ。前ほど役には立てないけれど、雑用でも出来たら、もしかしたらまた置いてもらえるかもしれない。
「それは大丈夫だと思いますよ。 ……過保護な誰かさんの許可が出れば、の話ですけれど。」
胡蝶さんは意味深な笑みを浮かべ、「では、また」と部屋を出ていった。
……………
「おや、不死川さん、いたんですか」
部屋の外にいた俺に気づき、胡蝶がからかうように言う。
「…過保護な誰かさんが、なんだってェ?」
「何か心当たりでも?」
「……。」
黙って軽く睨む。
胡蝶は涼しい顔をして「よっぽど大切なんですね、あのお嬢さんが。」と続けた。
「ずいぶんご執心だと思ったら…あの方、粂野隊士の妹君なんですってね。」
「……だったらなんだァ。」
「罪滅ぼしのつもりですか?」
「……。」
「それとも同情?」
「…てめぇには関係ねぇ。」
しばらく沈黙が続いた。
先に沈黙を破ったのは胡蝶だった。
「…余計なお節介でしたね。もう傷は良くなっていますから動いても大丈夫です。」
「世話になった。」
去っていく胡蝶の背中を見送った。
”罪滅ぼしのつもりですか?”
ちがう。
”実弥、俺に何かあったら妹を頼む…”
匡近。
確かにお前との約束だ。でもこれは約束だからじゃねぇ。
今は俺自身があいつのことを−…。
「…同情なんかじゃねぇよ。」
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まるこ(プロフ) - 蝶々。さん» ありがとうございます。 嬉しいです! もう少しだけ続きますので、宜しければ見届けてやってください。 (2020年6月13日 16時) (レス) id: d44de4af2e (このIDを非表示/違反報告)
蝶々。 - .とても素敵な作品でした...。長男’s…尊。次回作あったら見に行きますぅぅ!(泣) (2020年6月13日 16時) (レス) id: 99cfbd2b16 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まるこ | 作成日時:2020年5月25日 23時