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あの後、岸くんがテキパキと働いてくれて日が暮れる頃には引っ越しが終わった。
「バイバイ。思い出の部屋。」
「寂しい?」
「高校卒業してからずっと住んでたからね。愛着あるよ、割と。」
玄関に立ち、部屋の中の方を向く。
不安しかなかった大学1年の春。
聡と恋に落ちた夏。
同棲し始めた冬。
振られた、2年夏。
「今は風磨がいるもんね。」
「ん?」
「なんでもない。」
この部屋では、自分1人より、聡と過ごした時間の方が長い。
今日、今、この部屋を出たと同時に聡との思い出は消し去ろう。
「あ、Aちゃん。」
繋いでいた手を離して、風磨はしゃがんだ。
「靴紐、また解けてる。前に教えた結び方してる?」
「あー...」
そういや、まだ私が風磨を毛嫌いしていた頃、靴紐を結べない私を馬鹿にしてきたっけ。
「よし、これでいい。」
「ありがとう。」
チュ、と軽く頬にキスされて、また手を繋ぐ。
風磨がドアを開けてくれて、私が鍵をかけた。
「お世話になりました。」
「この男、ストーカーじゃなくて彼氏だったのね。早く言いなさいよ。」
「すみません(笑)」
大家のおばちゃんに勝利から預かった分の合鍵も渡した。
また、いつでも遊びにおいでって。
「もう助手席サマになってきたね。」
「まぁね。風磨の彼女だもん。」
「ははっ、なにそれ可愛い。」
笑いながら車のエンジンを掛ける風磨はカッコいい。
もう、本当に全部カッコいいの。私の彼氏。
「今日のご飯どうする?」
「んー、もう鍋でよくない?」
「最近すぐ鍋って言うよね。」
「美味いし簡単だしいいの。野菜もいっぱい食えるし。」
スーパーでもカゴを持ってくれる。
お会計も袋に詰めるのも持つのも風磨。
私は横で話しながら風磨に見惚れてるだけ。
なんかこんなに人に物事を任せるのって初めてかも。
「風磨ってさ、優しいよね。」
「今更?」
「改めて?」
「なんで疑問系なの(笑)」
「分かんない。」
こんなに緩くて内容の薄い会話をするのも久しぶり。
なんか、風磨の横にいると、いい意味で気が抜けちゃう。
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はる(プロフ) - あらたさん» あらた様 うわー!本当ですね!すみませんご指摘ありがとうございます!これからも当作品をよろしくお願いいたします。 (2017年11月6日 2時) (レス) id: ab803b53a8 (このIDを非表示/違反報告)
あらた(プロフ) - 設定に変わってしまっているのかなと思います。なにか考えがあってでしたら申し訳ありません。これからも更新楽しみにしております! (2017年11月5日 4時) (レス) id: b48a22250f (このIDを非表示/違反報告)
あらた(プロフ) - こんばんは!初めまして。作者様の書かれるストーリーだけでなく、言葉や作品の雰囲気やリズムなど全部がツボです(;_;)作者様のお話が大好きです〜!それと私の間違いだったら申し訳ないのですが、68では主人公は夏生まれとなっていますが70では11月?あたりの→ (2017年11月5日 4時) (レス) id: b48a22250f (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - 未空さん» 未空様 もったいないお言葉をありがとうございます!これからもよろしくお願い致します。 (2017年10月26日 1時) (レス) id: ab803b53a8 (このIDを非表示/違反報告)
未空(プロフ) - 今1番好きな作品です!続き楽しみにしてます! (2017年10月24日 0時) (レス) id: 0d0a977df5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はる | 作成日時:2017年9月13日 2時