11曲目 ページ13
息ができなかった。
榊原さんのトランペットは、この空間を切り裂いた。
「…っさ、榊原さん、上手！いつからやってたの？」
沈黙を破ったのは、パートリーダーの星川先輩だった。
小学校三年生から、と答えるのを聞きつつ、私は自分の楽器を眺めた。
お世辞にも、綺麗とは言えない。
金メッキは所々剥がれているし、主管(さっき覚えた。チューニングの基本となる菅)にはなぜかセロハンテープが貼ってある。
「それ剥がすと空気が漏れちゃうのよ。気になるだろうけど、我慢してねー」
私について教えてくれていた先輩(キリちゃんと呼ばれている)が、剥がれかけたそのテープをつつきながら言う。
「そうだ、三年生がこの夏に引退するでしょ？そしたら、この子が柚月さんの相棒になるんだよ！」
まるで人間のように呼びながら、先輩は、自分の横に置いてあった楽器を嬉しそうに抱え挙げた。
「“この子”…？」
「そ！berryっていうの！私の前に使ってた先輩がつけた名前だよ！かわいいでしょ？」
満面の笑みでこちらを見ている。
そういえば、吹奏楽部の人は自分の楽器に名前をつけるというのを聞いたことがある気がする。
「その楽器、ずっと誰も使ってなかったから名前がないの。ね、柚月さん、名前つけようよ！」
「な、名前？」
当然そう言われても、思い浮かばない。
「ちなみに星川先輩のは、ジャック。なんか、私が入れ違いになった学年の先輩がつけたらしいのよ。星川先輩のかっこいい音にあってるんだよねー」
「ジャック…」
ない脳みそをフル回転する。
「あ、楽器って何十年も使われるから、何十年も残る名前になるかもよ♪」
「なっ⁉」
そんなプレッシャーをかけられて、ますます思い浮かばなくなる。
「えーっと…名前…」
しばらくひとりで考え込む。
「あ…」
「なに？なに？思い浮かんだ⁉」
先輩が顔を輝かせながら覗き込んでくる。
「…エミリ、にします」
「エミリ！かわいい！」
先輩は、かわいい！かわいい！と言いながら飛び跳ねている。
「名前つけるとね、楽器が大好きになるの。もちろんつけなくても好きなんだけど、愛が生まれるのよ愛が！」
なんかその他いろいろ語ってたけど、早口でよくわからなかった。
「キリちゃーん、そろそろ終わりにするよ」
「はい！」
三年生の先輩たちに言われ、やっと先輩は戻ってきた。
「柚月さん、大事にしてあげてね！エミリ！」
「…はい！ありがとうございます…」
私は名札を見て、お礼を言った。
「…霧岡先輩」
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夜桜(プロフ) - Mさん ありがとうございます！ (2017年9月16日 20時) (
レス) id: 3ea5d81375 (このIDを非表示/違反報告)
M(プロフ) - 更新がカタツムリってかわいい表現ですね。タイトル好きです。 (2017年9月12日 13時) (レス) id: e7bec98917 (このIDを非表示/違反報告)
夜桜(プロフ) - わああああテキストが終わりませんっ！更新がカタツムリになりそうです！ (2015年12月27日 19時) (レス) id: 3f7ebbf011 (このIDを非表示/違反報告)
ジャック - 続編待ってるよん 執筆編集頑張れ (2015年12月27日 18時) (レス) id: 183314bc64 (このIDを非表示/違反報告)
夜桜(プロフ) - 途中のところで話を挿入してますのでご了承くだされ。 (2015年5月5日 22時) (レス) id: 44e047bbf3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夜桜 | 作成日時：2015年4月21日 20時
