第三十話 ページ32
住宅街はほぼ崩れ、あちこち火が回っている。
「ひっでえな……。」
二人は息を飲み、後ろも前も警戒しながら進む。
遠いところから微かに聞こえる轟音も聞き漏らさずに。
こんな状況で彼等は安全な所という場所を見つける事が出来るのか。雲行きが怪しくなる。
「A。安全そうなところって、見当は付いてるのか?」
込み上げてくる緊張と恐怖をなんとかしかたかったのか、岩泉はAに話を振った。
Aはその質問に「うん。」と肯定する。
岩泉は「それどこ?」と彼女に尋ね、Aはそれに答えようとするが、その瞬間彼等の近くに轟音が響き渡り、黒い煙幕が上がった。
「近いね。」
「ああ。」
その轟音を聞いた二人は汗を垂らし、心臓の音が更に高鳴る。
耳にまとわりつく様な嫌な声。
何度も聞いた声。忘れられない声。
その声は段々近くなり、小さな轟音も段々大きく聞こえてくる。
二人は思わず後ろから聞こえるその姿を見ようと振り返ってしまう。
『きら……ぎらと……ぎらきらきー……ら……』
ゼンマイが巻かれたような機械みたいな声で歌っている少女が二人を見てニコォと笑う。
「行くぞ!!A!!」
少女の手がキラキラと輝かしたのと同時に岩泉はAの手を強く引っ張り、走り出した。
強く引っ張られたAは危うく転びそうになるが、慌てて次の足を地面に付け、走り出す。
はっはっと息を荒らげながら追いかけてくる少女から必死に逃げる。
が、二人と少女の距離は段々縮まってくる。
少女は機械のような声で『待って』と何度も彼女等に呼び掛ける。
その瞬間、Aは辛そうな呻き声を上げ、その場で転んだ。
その反動で岩泉も後ろに引っ張られ、転ける。
「A?!」
Aは蹲り、包帯を巻いていた方の膝を抱えていた。
その包帯からは血が滲み、Aは呻き声を上げるだけだった。
Aを抱えて走ろうと思った岩泉は咄嗟にAの肩に腕を回そうとしたが、細いふくらはぎが視界に映る。
岩泉は動きを止めた。恐る恐る上を見上げる。
「づ……かま……えだ……」
不気味に笑う少女の姿だった。
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作者名:名無し琲世 | 作成日時:2017年7月26日 21時