ページ27
＊
笑った拍子に感じた痛みで思わず顔を歪める。救急箱を手に戻ってきたAは『触っちゃダメです！』と俺の腕を止め、そのままソファーに連れていった。彼女は正面に腰を下ろす。
『 染みるかもですけど、我慢してくださいね 』
「 ん…ｯいﾞってぇ…… 」
『 すみません、もう少しだけ 』
消毒液をたっぷり染み込ませた脱脂綿を当てられ、あまりの痛みに声が漏れてしまった。あぁ、やっぱり痛いな。
まだ血が滲んでいますので、と絆創膏を貼られた。お礼を言い、ぐで〜とソファーで脱力する。
その際、殴られた鳩尾を忘れてしまい、うつ伏せで寝転んでしまった。おかげで腹にも刺激が来て、声にならないぐらいの激痛が走る。
『 他にはもうないですか？ 』
「 …うん、ないよ、 」
『 嘘ですね 』
その返事を意外にも素早く否定した彼女は、失礼、と言いながら俺を仰向けにして、徐に服の上から腹を押す。抵抗しようとするも既に遅く、殴られた箇所を触られてしまった。
「 うﾞ っ… 」
『 …ちょっと見ますね、うわ… 』
かなり酷いのか、Aは一瞬顔を歪めたあとに、どこかへ小走りで向かった。帰ってきたその手には、大きめの濡れタオルがある。
それを腹に当てられるとひんやりした感覚があり、痛みが和らいでいくような気がした。まぁ痛いのには変わりないんだけど。
『 保冷剤だとお腹冷やすかもしれませんから 』
「 ありがと 」
『 他は本当にないですか？ 』
「 うん、ないよ。さっき嘘吐いてごめん 」
『 いえいえ 』
横から救急箱を片づける音が聞こえる中、さっきのことを思い出してしまう。だんだん視界が霞み始めた俺は、腕で目を隠した。
誤答が続く収録、仕事で目紛るしく回る日々。局の方には暴力を受けて、脅迫されて。言ってしまうと、かなり限界だった。
あぁ、もう嫌だ、泣きたい…
・
・
−−−−−−突如、腹の上に温もりが乗った。
ゆっくりと、生まれたての赤ちゃんに触れるような手つきで撫でられ、一定間のリズムで軽く叩かれる。そしてそこは、もちろん殴られていない場所。
優しいそれが身に染みる。俺の涙腺が崩壊するのを加速させるには十分な、温かい刺激だった。
『 我慢しなくていいですから 』
柔らかいソプラノが鼓膜を揺らす。腕を退けると、微笑みを浮かべながら撫でる動きを止めないA。彼女を見た瞬間、今まで必死に堪えていた涙が溢れて止まらなくなった。
→
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 130人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
音々(プロフ) - 神威-αさん» 全然大丈夫です！ありがとうございます！ (2021年3月8日 23時) (
レス) id: 713cea38c0 (このIDを非表示/違反報告)
神威-α - 音々さん» 分かりました。僕が書こうと思っていた話に被らないようにしたいので短くなるかもしれません。あと、『お疲れ様』の石森ちゃん視点の話も書こうと考えているので遅くなると思います。それでも大丈夫ですか？ (2021年3月8日 22時) (レス) id: 60ae3ef212 (このIDを非表示/違反報告)
音々(プロフ) - 神威-αさん» 私自身、生理前とかって少し注意された（怒られた）だけで泣きたくなったりするので誰かに怒られて悲しくなるみたいなのがいいです！ (2021年3月8日 16時) (レス) id: 713cea38c0 (このIDを非表示/違反報告)
神威-α - 音々さん» ありがとうございます！そんな風に言って頂けるとすごく嬉しいです。リクエストもありがとうございます。図々しいだなんてとんでもありません！ぜひ書かせてもらいます。ところで``色々´´とありましたが、なにか具体的にあったりしますか？ (2021年3月8日 16時) (レス) id: 60ae3ef212 (このIDを非表示/違反報告)
音々(プロフ) - 更新お疲れ様です！すごく涙が出て悲しくなったり、思わずニコニコしちゃうような話もあったりして、毎日楽しく読ませていただいています。図々しいですがリクエストで、色々あって不安な夢主ちゃんを慰めるというお話が見てみたいです！これからも応援しています！ (2021年3月8日 0時) (レス) id: 713cea38c0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
