サカナは空を見上げた 【爆豪勝己】

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彼は私を抱きかかえたまま、何も話さず歩をすすめる。

居間を出て 少しの廊下を歩き
階段に足をかけようとした彼に、流石に私は声をかけた。



「…重いでしょう、もう下ろして」

「ああスッゲエ重い」

「ひどいわ」


グズ、と鼻を啜りながらその顔を見上げると 彼は安心させるように緩く笑って こちらに視線を向けた。




それは何故か私の心にストン、と落ち着く。

重いと言った割に
トントン、と軽やかに階段を登り終えた彼は、器用に足を使って自室であろう部屋の扉を開けた。


ふわりと彼の匂いに包まれた気がした。





「おら、そこ座れ」

言葉とは裏腹に ふかふかのベッドへ優しく下ろされる。

彼は部屋の窓をガラリと開けてから、私の隣に腰掛ける。生暖かい風が頬をかすめた。



「…君のご両親といるとすごく幸せで、なんだか気が緩んでしまったみたいだ」



すまない 後で2人にも謝らないとな、なんて言葉を続ける私を彼はじっと見つめていた。

深い紅が 私を掴んで離さない




「なあ、俺は そんなに頼りねえかよ」



彼の言葉がうまく頭に入らない。



「…なんかあんなら、話せよ」



それはあまりにも懇願するように小さな声で、私の心臓が軋んだ。








「ばかな爆豪くん、そんなに 暗い話じゃあないよ」



あっけらかんとした声を出した。

暗い声を出さないよう、彼に「そんだけかクソ」とでも暴言を吐かれるように、ケロリとした顔で話すようにした。


「漫画だったら 村人Bの悩みくらいちっぽけな話かな」


くすりと笑う私に
彼は怪訝そうな視線を向ける。

ああ、お願い、そんな眼をしないで？





「私は一人暮らしをしているから温かいご飯とか、返ってくる挨拶とか、ご両親の優しさが嬉しかったの」


視線を下にさげて言葉を続ける。





「なんで一人暮らししてんのか聞いてもいいか」


自覚はなかったが どこか声が暗くなってしまっていたのだろうか。
彼は疑うように声を発する。



「ああ、親に捨てられたとかじゃあないよ」


私は 声のトーンを間違えていないだろうか。
いつも通りだろうか。






「ただね、昔からとても嫌われていたの 」








ただ、それだけよ。





カーテンを揺らす風に視線をやりながら 表情も変えずに言葉を紡いだ。

けろりと全てを吐き出した。







「…お前、自分が今どんな顔してんのか分かってんのか」




なのに 彼は見逃してはくれなかった。







《 この線を超えないでくれと風に願う 》

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