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温かい食卓を私も一緒に囲っているのは なんとも奇妙な状況だった。
彼のお母様はとても料理上手らしく
色鮮やかで食欲のそそる料理たちがそこに並んでいた。
「いただきます」
見た目に反して礼儀正しい彼が手を合わせた姿に習い、私も同じく声をこぼす。
「はい、どうぞ」
ニッコリと人好きのする無垢な笑顔を向けてくれた事に、胸がなんだか締め付けられた。
そんな想いを振り払うように
目の前のほくほくと湯気を上げる料理に箸を伸ばす。
口に運ぶ所作まで 彼のお父様とお母様は嬉しそうに視線を向けていた。
「…おいしい」
口の中で優しく広がる甘さに
その言葉は勝手に口をついていた。
「ふふ、それはよかった!
ほらほら 遠慮しないでいっぱい食べな」
「早く食べないと勝己が全部食べちゃうよ」
「フン、遅い奴が悪いんだろ」
目の前にいる3人は とても温かい家族だった。
料理のおかわりを告げる彼に、ぶつぶつと文句を言いながらも嬉しそうな母に、穏やかに見守っている父。
それは 私が幼い頃憧れていたもので。
( …いいなあ )
頭によぎったそんな思いが とても邪魔だった。
あたたかい、おいしい、うらやましい、
そんな言葉が何も出てこないように 目の前の料理を勢いよく口にかきこんだ。
ようやっと ごくん、とソレを飲み込んで 手にしていた茶碗を机に置いた。
「…すごく 美味しいです」
微笑むよう努めて顔を上げたとき ぽたり、と何かが落ちた。
机の上に小さなシミができる。
それは何か、私の眼から溢れているようだった。
頬が濡れて ようやく気がつく。
ああ、自分は泣いているのか と
「あれ…何でだろう…すみませ、」
慌てて涙を拭う。
意思に反する自分の状況に とても頭が回らなかった。
( 皆、突然泣いたら驚くだろう 馬鹿か私は )
ゴシゴシと何度も拭うのだが それはぽろぽろと底を知らないように流れ落ちる。
くそ、くそ
「ごちそーさん」
突然、彼が手を合わせる音と声だけが響いた。
ああ
突然泣いて うざい奴だと思われただろうか
もうこの場にいたくないのだろうか、なんて
立ち上がった彼に目を向けると
彼はスッとその親指で私の涙を拭い、呆気にとられたままの私の体を ひょいと抱き上げてしまった。
「悪ィけど食器片付けといて」
子供のように抱きかかえられた姿は ひどく惨めだっただろうか。
《 けれど涙はぴたりと止んでいた 》
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キリ - 美潮ちゃんの見た目聞くとアリ○ル見たいですけど似せたんですか?とっても面白いです (2018年1月7日 5時) (レス) id: e989008aff (このIDを非表示/違反報告)
西垣(プロフ) - アカネ先輩さん» とても嬉しいお言葉ありがとうございます!! ぜひ読みに行かせて頂きますね◎○続編になりますが、そちらで更新頑張りますのでお付き合いくだされば嬉しいです ありがとうございます! (2017年5月21日 21時) (レス) id: ca90c69f0b (このIDを非表示/違反報告)
アカネ先輩(プロフ) - めっちゃ面白い…タイトルに惹かれて一気に読みました!作者さんの書くかっちゃんがかっこいいです!私もかっちゃんと轟くんの短編書いているのでよかったらみにきてください!更新楽しみにしてます(´˘`*) (2017年5月21日 2時) (レス) id: ad572bf5b5 (このIDを非表示/違反報告)
西垣(プロフ) - みいるさん» すごくすごく嬉しいです!!!もっと楽しんで頂けるように頑張ります、シリアス回続きますが根気強くお付き合いください…(泣)ありがとうございます!◎○ (2017年5月19日 22時) (レス) id: e58a020c03 (このIDを非表示/違反報告)
西垣(プロフ) - るるるさん» ひえええ(泣)恐れ多い…ありがとうございます…頑張ります…(泣) (2017年5月19日 22時) (レス) id: e58a020c03 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:西垣 | 作成日時:2017年4月16日 22時