サカナは空を見上げた 【爆豪勝己】

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「お風呂、ありがとうございました」



人の気配のする部屋の扉を控えめに開くと
キッチンに立つお母様と 食器を机に並べるお父様がいた。

爆豪くんは私とすれ違いでお風呂へ向かったままだ。





「あははっ、やっぱり勝己の服じゃ ぶかぶかだね」

「…息子さんは手足が長いみたいで」


私の不格好な姿に 振り返って笑い飛ばすお母様。
やはりこれは爆豪くんの物なのか、と自分の姿に目を落とした。

白色の半袖シャツは肩がずるりと落ちてくるし
スウェットのズボンも手で押さえていないとずるずると落ちてくる上に、裾を引きずってしまう。

この格好のどこを爆豪くんは ″良い″ と思ったのか未だにさっぱりわからない。








「美潮さん、すぐにご飯ができるから座って待っていてくれるかい？」


ぐい、と肩からずれるシャツを上げていると
温かいお茶を注いでくれたお父様が優しげにそう 席を促してくれた。

つい流されそうになるが そう甘えられはしない。





「…あの、お風呂だけで充分です」

できる限り愛想良くしようと表情筋を働かせる努力をする。




「制服の洗濯が済んだら、すぐに帰ります」


ありがとうございます
と、頭を下げたのだが それはグッ、と誰かによって さらに押し付けられた。

誰か、なんて1人しかいないのだけれど。





「…ねえ、顔を上げたいわ爆豪くん」

「外のすげー雨も分かってねえ奴はこのままでいいだろ」

「いたいいたい」


頭の上に置かれた大きなその手は
ぐりぐりぐり と私の頭を軽く握りつぶす勢いで包み込む。



「せめて雨が止むまでは此処にいろ」


やっと離された頭を上げると
つい先程までお風呂に行っていたはずの爆豪くんが、黒のタンクトップを身につけて ガタリと食卓に腰を下ろしていた。

トントン、と隣の席を叩かれて 半ば強引にそこへ導かれる。



「ねえAちゃん、嫌いなものとかない？」

「あ、いえ…特には」


どこかソワソワとしながら座っていると
隣に座る爆豪くんが私の顔を覗き込んだ。

パチリ、と目があうと くつくつと愉しそうに笑われる。



「お前が余裕ねえの、おもしれえな」


まだすこし濡れている髪が 彼の幼さを増していて
喉を鳴らして笑っている珍しい姿に心がざわつく。


なんというか、無邪気なのだ 。


「…ばか」


2人で顔を合わせてくすりと笑った姿を
彼のご両親が優しく見つめていた事は、私は知らない。




《 暖かい食卓はテレビの中の出来事のような 》

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