佰拾弐 ページ33
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燭台切はそう言って、小さく息をつく。
それから少しの間、目を伏せ、そして瞼を開けた。
夕日の瞳からは感情が読めない。
だが、奥底に宿るものを、俺は知っている気がする。
燭台「そう言うプライドはあったよ。
でも、今現世にある僕の本体、
焼けていて、とても刀とは言えない。
あれを見て人は“綺麗”とか言うけれど、
僕にとってはあまり良い気持ちにはなれないかな。
君は僕を刀らしいとは言うけどね」
切国「燭台、切………？」
燭台「付喪神として顕現し、
自分自身を持って戦っている。
それはとても心地良くて、
それと共に顕現を解かれたら
あの黒い刀身に戻る事に躊躇ってしまう。
“痛み”を感じないこの体は余計な事を
考えなくていいから気が楽なんだ。
………たから、君は“僕”じゃない」
切国「？」
燭台「そのままで良いんじゃないかな。
君は、人の気持ちが理解できて、
人に寄り添う事が出来るんだから。
それは僕には出来ない事だ」
燭台切はそう言って皆がいる方へ行ってしまう。
………分からない。人に、寄り添う？俺が？
人のようだとは………
やはり俺は刀としても半端なのか。
燭台切が言っていた意味がいまいち分からない。
切国「(痛み、か)」
山姥切side〜end〜
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燭台切side
なんで、あんな事言ってしまったんだろう。
こんな事、話す気は無かった筈、なんだけどな。
僕は右目を覆う眼帯に触れた。
僕が居た本丸の記憶はない。
けど“燭台切光忠”としての記憶はあるらしい。
“僕”って個体は、あの大地震の事を
覚えているらしい。
燃え盛る炎を見ていると、あの日を思い出す。
もう痛まないはずなのに………
刻まれた傷が疼くような気がした。
焼かれて意識を取り戻した後は、ほんと嫌だったな。
何も斬れない刀身になって、
刀剣として、意味を成せなくなった
事実が嫌だった。
けど山姥切君と僕は違うと思った。
彼は僕を“刀らしくて羨ましい”と言った。
“冷徹にはなれない”とも。
今の僕は痛みを感じない。
今でもそれは“便利だ”と思ってる。
変に感情に振り回されるよりずっといいから。
でも彼は………人らしい感情を持っていて、
相手の“痛み”を共感できる。
僕には出来ない事。
それは付喪神として、
捨ててはいけないもの……のように感じる。
僕には理解出来ない事だから、
分からないけれど。
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作者名：冷泉 雪桜
| 作成日時：2020年7月21日 18時
