玖拾陸 ページ17
鶴丸side
くそ………Aが、俺達を庇ってこんな姿に。
浅はかだった………
楽観視をしていたつもりは無かったが、
もっと警戒するべきだった。
この世界には俺達刀剣男士の審神者がいない。
だから下手に傷を負うことはできない。
手入れで傷を癒せるのは審神者だけ。
自分で処置もやろうと思えば出来るが
何せこんな瘴気に溢れた世界。
とても傷や穢を清めきれない………
ちゃんと分かっていた筈なのに、
俺は何をしているんだ。
Aに命を賭けて俺達を庇わせてしまった。
どれ程、自分ご無力だったのかを
改めて思い知らされた。
しかも俺にとって最悪な形で………っ！！
鶴丸「………その汚い手で、Aに触るな」
本体を奪われた今、俺はAを抱え
朝霧から距離を取ることしか出来ない。
これ程………怒りを覚えた時はない。
Aを下衆な妖共の前で、
傷をつけ、見世物として晒した者への怒り。
そして、その状況を作った自分に対してだ。
目の前の蛇妖怪が、憎らしい。
何も出来ん自分が………恨めしい。
本体さえあれば、こんな奴………
切り刻んでやったものを。
『………兄、さん』
鶴丸「！」
『その感情は、あかん。自分を見失うで』
鶴丸「A、動くな。傷が」
『言ったやろ………うちは死なへんよ。
ｯ！………った……
ﾊｧ全く、思いっきりやってくれて……』
するとAが自分で体に
突き刺さったままの杭を引き抜く。
鮮血が流れ出たが、すぐに血は止まった。
それどころか、メキメキと音を立てながら
肌に刻まれた傷は有り得ない速度で塞がった。
その様子は見慣れないものだったから、
俺は思わず目を見開いた。
そんな俺を置いてAは一息入れる。
慣れた手付きで全ての杭を引き抜き、
地面に杭を転がして、
体を起こすと俺の腕から少し距離をとった。
『…………気味悪い所、見せたな。
うちは大丈夫やから………
そんな怖い顔せんといてや。
綺麗な顔が勿体ないで？にーさん』
そして彼女はまた、俺から避けるように………
話をはぐらかす様に背を向けたまま語る。
…………振り向きも、してくれないのか。
『祭りが始まるんやろ。連れてってや』
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作者名：冷泉 雪桜
| 作成日時：2020年7月21日 18時
