漆拾捌 ページ39
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これは、歌仙兼定の………
七緒「彼女の初期刀は歌仙だったか」
蜂須「差し詰め、辞世の句………と言ったと頃か」
七緒「…………」
これを読むのが妹ではなく、俺であってしまった。
句を読めば、相当な覚悟と願いが
込められているのが一目瞭然だった。
………やるせない。
妹は恐らくこの初期刀の文は読めてはいない。
彼の願いも………叶うことはなかった。
俺が、もっと早く妹の異変に気付けていれば。
こんな事にはならなかったのかも知れない。
蜂須「その日記から記憶は読み取れないのかい？
君は物に宿る思念を読む力があっただろう？」
七緒「…………駄目だ。完全に思念が
途切れてしまっている。
恐らく力尽きてしまったんだ。
彼は………もう、付喪神としての力を失っている。
物に宿る力も無く、本刃は折れてしまったんだろう」
俺の力には特殊能力があった。
俺達の血筋が持ち得る力………
それは物体から記憶を読む力。
俗に言う、サイコメトリーと言うもの。
たが俺の場合は記憶の思念を残した対象が
“まだこの世に存在している”と言う
条件がなければ記憶を読み取ることは不可能だ。
つまり、この日記の持ち主である
歌仙兼定は………もう折れてしまっている。
太鼓「嘘だろ」
七緒「思ったんだがこの広間………
痕跡を辿ればおかしくはないかい。
この荒れ様………“何か”と争ったようなものだ。
そうでなければ出来ない痕跡。
一体、何と戦っていたんだ………彼らは」
広間のあちこちに刻まれた刀傷。
その傷跡をそっと撫でたり、何とか意識を集中して
記憶を辿ろうとして見るが、変化は無い。
嗚呼、この刀傷を作った者の
記憶も読めないとなると………
彼らはもういない。
七緒「…………何も聞こえない」
太鼓「……そっ、か」
七緒「ここもかつて、俺達の本丸同様に
沢山の声が行き通っていた筈だが………
………何も聞こえないのは、寂しいね」
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作者名：冷泉 雪桜
| 作成日時：2020年7月6日 12時
