肆話 ページ5
Aside
初恋は、その人だった。
私がまだ十にも満たない頃に、
真っ白なあの神様に………私は恋をした。
”つるさん、つるさんっ！“
“A”
“ぎゅってしてー”
“君は甘えただなぁ。ほら、おいで”
一度失われた記憶だからか、
はたまた私が小さな頃の記憶だったからか、
今では朧気な記憶ではある。
でも、鶴さんの事は………忘れたくない記憶だった。
綺麗な神様だった。
白い羽の様に、その腕で彼は私を
優しく包み込むように抱きしめてくれた。
心地が良くて………安心した。
鶴さんが居たから、寂しくは無かった。
でも、彼は違った。
“つるさん？”
“んー？”
“どうしたの？………かなしいの？”
“…………いーや、何でも”
いつも、寂しそうに笑っていた。
今本丸に居る鶴丸様のような、
純粋に楽しそうな笑みは見たことなくて。
ただひたすら………迷子のような、
悲しい笑みをたたえるだけで。
凄く心配だったし、不安で、それから寂しくて。
彼の意識は“私”には向けていなくて、
別の方へ意識が向いていた。
勿論、彼はちゃんと“私”として見てくれていたけど
時折見せるそのガラス玉のような目は、
深く………印象に残っている。
今思えば、私と私の母である夜蝶さん………
月島 揚羽と重ねて見ていたのかも知れない。
あんなにも寂しく感じたのはそれもあったのかな。
だから、だからね。鶴さんを助けたかった。
支えてあげたかった。
いつか、本当の笑顔を見たいと、
彼が喜びそうな物を集めたり、見せたりしてたな。
でも最後まで、私は彼を救えなかった。
───────────────
『…………思わず逃げて来ちゃった、な』
私は鶴丸様達と別れて、来た道を振り返る。
逃げて来てしまった………
鶴丸様に悪いことしてしまった。
本当は駄目だって分かっているんだ。
彼は“鶴さん”ではない。二振り目の鶴丸国永。
…………好きだったあの刀ではない。
“仲間”として接しなければならないのに。
審神者としての自覚を持ち、
彼を特別視はしてはならないのに。
なのに…………
『(あんなに、も………明るく笑えるなんて)』
彼の笑顔が眩しくて、もしも少しでもあの時、
“彼”をあんな風に笑わせてあげれたのなら。
悔しくて………
そして同じ顔で、同じ声で、
あんな風に笑ってくれるのが……
とても嬉しく思えてしまうの。
思え、ちゃう、の。
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作者名：冷泉 雪桜
| 作成日時：2020年6月28日 10時
