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弐拾壱 ページ11








今日は朝から雨。
お世話になっている宿屋を出て、
私は雨の中、町中を歩いていた。

頭を冷やさなければ。
昨日はつい、あのまま実弥さんのお宅を出て行ってしまった。
気持ちが昂ぶってしまって………冷静じゃなかったのだ。
謝らないと、いけない。

でも、今更………昨日はあんな別れ方をしてしまった手前、
彼の家に行くことが出来なかった。


こんな気持ちになったの、久々だ。
こういう時、どうやって立ち直ったのだったっけ。
やり方を忘れてしまった。
そんな事を考えながら、ぼんやりとしつつ、
雨でびしょ濡れになっているのも気にもせずに歩く。










雨が、更に胸の痛みを促した。

今まで一人で旅をしてきて、一人が辛いと思った事なかったが、
今だけはとても、とても辛く感じた。










『…………(疲れた)』










歩く事も億劫になって来て、私は路地の隅にしゃがみ込む。
雨で、しかもこんな路地の端で女が座り込む所なんて、
誰も気にはしない。
皆、空から降り注ぐ涙で精一杯だ。
足元を見るようなもの好きは居ない。

………何やってるんだろ。
どうにもならないのに、ここに居たら確実に風邪引くのに。
でも、どうしょうもなく今は、
雨に打たれたい気持ちで一杯だった。







その時だ。
バシャ!と水が近くで跳ねる音がした。









「………ここに居やがったかァ……!」


『(え、)』


「何やってんだっ、!!」











雨が、当たらなくなった。
顔を上げた時、今まで見たことのないような顔をした、
彼が………そこに居て。私を見下ろしていた。

しゃがんで私に視線を合わせてくる。
それから一瞬躊躇いを見せたその手が、
体の芯から冷え切ってしまった私の肩に、
温かい手が乗せられる。











「!冷え切ってるじゃねぇか馬鹿たれェ!!」

『………サネ、ィ……ァン………』













空の涙が降る時、人は空を見る。
足元になんて、気にも止めない。

でも貴方は──










『ァ………ヒグッ………、ウ、ウゥ……!』


「!…………、………熱ゥあんじゃねぇのか?
ほら乗れェ、おぶってやるから」











私の涙を、見てくれた。

大きな背と、温もりを感じながら、
私は意識を手放した。

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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年7月1日 1時

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